仕事が遅い部下に必要なのは尻を叩く事ではない スピード命のビジネスには落とし穴がある事も
戦略が間違っているのに、戦術が正しい場合はさらに厄介です。間違ったところに一直線に向かってしまい、気づいたときにはもう手遅れで、取り返しのつかない事態に陥ってしまうことがあるからです。
例えば、ある飲食店が、業績拡大のためにA市に集中出店する戦略を立てたとします。具体的な出店計画を練り、実行しました。優れた戦術に加え、スピーディーな対応であっという間にA市内に10店舗オープンしたとしましょう。
ところが、このA市には、業績向上に寄与するようなターゲット層の人口が少なく、思うような結果にはなりませんでした。つまり、元々の戦略が間違っていたのです。
戦術は良かったからこそ、順調に10店舗のオープンまで実現ができました。この場合、「できてしまった」というほうが適切かもしれません。戦略が間違っていたことに気づいたころには、10店舗分の開業資金をすべて投じ、スタッフも新たに雇っていました。
このように、戦略は悪いが、戦術は良い場合、あっという間に「今さら止められない」ところまで進んでしまうのです。
戦術も間違っていれば引き返せた…
もしこれが仮に戦術も間違っていれば、途中で「何か間違っているんじゃないか」と気づくチャンスがあり、もう少し手前で、引き返すことができたかもしれません。戦略も戦術も間違っているなんて悲惨だと思われるかもしれませんが、こちらのほうがまだ、やり直しが利くという意味ではマシなのです。
また、特に小さな組織やチームは、そもそも戦略を持っていないことも少なくありません。戦略のないチームは、リーダーもスタッフも今月をどう乗り切るかということしか考えておらず、未来の見通しを持たないまま、もぐらたたきのように、とにかく出てきた問題をしらみつぶしにあたり、手段先行になりがちです。
毎日忙しく働いているのに、業績が上がらず空回りばかり。そんななかでスピードを求めて走らされる部下は、暗闇の中をダッシュさせられているのと同じで、身体的にも精神的にも疲弊していきます。
近年は、何をするにもスピードが重視される傾向がありますが、その大前提として、しっかりと目標に合致した戦略と戦術が必要だということは、ここまでの話でご理解いただけたでしょうか。
ここまで述べてきたとおり、チームとして動いていくためには、まずは良い戦略を立てることが必要です。そしてそのためには、目標と現状を明確にしなければいけません。目標・あるべき姿と現状の差を埋めるセンターピンこそが課題であり、課題に対して立てられるものが戦略だからです。
戦略、という表現を使うと、少しとっつきにくい印象があるかもしれませんので、「見通しを持つ」と言い換えていただいても大丈夫です。
・あるべき姿を思い描く
・現状を把握する
・優先順位をつけ、課題を抽出する
・現状からあるべき姿まで行くシナリオを描く
こうしてつねに3カ月後、6カ月後の見通しを持ち、それを部下に共有することで、部下自身も動きやすくなります。