インフレ迫るいま「株式投資が強い」と言える理由 「資産形成にとって恐れるべきリスクの1つ」

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まず金利には、先ほども触れたとおり、現時点での将来のインフレの予想値が含まれているので、ある程度まではインフレのリスクを吸収してくれます。リスクが大きい投資対象での運用は安全資産で運用するよりも平均して高い運用利回りを得ることができ、このときに得られる平均的な利回りの上乗せ分をリスク・プレミアムといいます。

予想外のインフレが生じるとその分は吸収しきれなくなる可能性がありますが、株の場合はまだリスク・プレミアムが残っています。このリスク・プレミアムまで帳消しにしてしまうようなかなり急激なインフレが生じない限り、インフレのリスクを吸収可能ということです。

では、このリスク・プレミアムはいったいどのくらいあるものなのでしょうか。その水準を正確に知ることはできませんが、たとえばアメリカの株式市場を例にとって1928~2020年の期間でみると、株式投資のリターンは安全資産と考えられる長期国債に比べて年平均で4.8%も高くなっています。

年平均での4.8%の差というのは、10年、20年といったタームで見ると、まさに決定的な差をもたらす要因になります。単純な複利計算で計算すれば、20年で資産額に約2.5倍もの差が生じます。

実際のインフレ期に株式相場はどのように動いたか

日本株の場合はリスク・プレミアムがもう少し低いかもしれませんが、それでも基本的な構造は変わりません。こうしたリスク・プレミアムの存在が、株式投資のインフレリスクへの耐性を高めます。

残念ながらリスク・プレミアムは、あくまでも長期的、平均的にのみ期待できるものなので、短期的には必ずしもその効果ははっきりしませんが、長期で考えればインフレリスクを補って余りあるリターンをもたらしてくれる可能性が高くなっていきます。

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では、実際のインフレ期に株式相場はどのように動いたでしょうか。インフレが世界的に昂進した1970年代から1980年代初頭を振り返ると、実は株価は低迷局面が続いたのですが、これは主に原油高に起因する原材料高、金利高騰による影響が大きかったと考えられます。

そして、それらの影響が一巡すると株価は大きく上昇を始めました。つまり、短期的には急激なインフレに伴う業績悪化や金利高騰によって株価が下落することはありえるわけですが、長い目で見れば株価が物価上昇率を上回る率で上昇していく可能性は高いということです。

したがって株式は、基本的にインフレに強い資産だと考えられています。インフレのリスクは目に見えにくいリスクの一つですが、長期においては非常に大きな影響を持ちます。そのリスクに備えるという観点からも株式投資には十分な価値があるということになるでしょう。

田渕 直也 ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役

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たぶち なおや / Naoya Tabuchi

1963年生まれ。1985年一橋大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。海外証券子会社であるLTCB International Ltdを経て、金融市場営業部および金融開発部次長。2000年にUFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ国際投信)に移籍した後、不動産ファンド運用会社社長、生命保険会社執行役員を歴任。現在はミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。シグマインベストメントスクール学長。著書多数

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