不動産会社が期待するデジタル証券の魅力と課題 三井物産、ケネディクスは先陣を切って参入

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冒頭の六甲アイランドの物流施設は、元々Jリートが保有していた信託受益権の一部を切り出したものだ。

「優良な不動産は利回りが低くなりすぎて、Jリートでは取得が難しい。一方、個人投資家の中には利回りが低くても良いから優良な不動産似投資したいという声もある」(MDMの上野氏)

ケネディクスが昨年公募した渋谷の賃貸マンションも、不動産ファンドの投資対象にもなり得る競争力の高い物件だ。「リートなら上場させるのに300億円程度の資産が必要で、投資家には上場後の成長ストーリーを提示する必要がある。STなら計画から実行まで2~3ヵ月で、運用方針を細かく策定する必要もない」(ケネディクスの中尾氏)という機動力も利点だ。

未経験者への門戸は道半ば

 個人投資家と不動産の懸け橋として期待されるST。一方で、本丸である投資未経験者層からの資金流入には課題もある。STは原則として証券会社経由での販売が義務付けられ、証券口座を持っている層に投資が事実上限られる。

「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)をめぐる過去の詐欺的事案などを受けて、STの法規制も厳格になってしまった。公募要件の緩和等は今後の課題だ」(成本弁護士)

現物不動産よりは投資額が小さいとはいえ、1口あたり数十万円は個人にとって容易な金額ではない。背景には窓口となる証券会社への手数料のほか、STの公募実績が少ないため金融機関や法律事務所への手数料が高止まりしている。1物件につき1つのファンドを組成するため、運用にかかる事務手続きの効率化も急務だ。

日銀によれば、家計の金融資産のうち過半を現預金が占め、株式や投資信託は約14%にとどまる。STが眠れる金脈を掘り起こせられれば、不動産会社のさらなる参入もありそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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