北陸新幹線「かがやき素通り」小規模駅の生きる道 開業7年の沿線関係者「2年後延伸」の敦賀も連携

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リアル会場はコロナ禍に配慮し、メディアの事前告知を謝絶して口コミだけで参加者を募ったが、敦賀市オルパークには渕上隆信市長ら30人、上越妙高のフルサットには15人が集まった。また、感染拡大状況によっては完全オンライン化もありうることから、Zoom会場は40人程度を想定してやはり口コミで参加者を募り、当日は45人が集まった。新幹線が開業済み、または建設中の札幌、長万部、函館、仙台、東京、小松、福岡、鹿児島などから、行政、商工会議所、企業、大学、高校など多様な人々が顔をそろえた。 

フォーラムの敦賀会場には渕上市長らが参加した(写真:新幹線敦賀開業まちづくり推進会議提供)

今回の企画は、「かがやき」が止まらない、比較的小規模な都市のプレーヤーが集まり、自らの手で「開業後」を総括しながら未開業地域にエールを送った点、そして全国各地からオンラインで多くの参加者が集まった点など、新幹線をめぐる催しとしては前例がない。敦賀開業に先駆けて生まれた「延伸効果」と言えるかもしれない。行政や開業対策組織に施策を丸投げするのではなく、個々の人々が自らの意志と価値観に基づき、つながり方そのものをデザインする時代が訪れている。

「新幹線が『自分ごと』になれば」

筆者は、今回のような、「かがやき」が止まらない駅同士の連携はとても重要だと考える。これまでの開業事例をみても、新幹線は「全国規模でもローカルでも、『強者』をますます強くする」側面、そして「東京と少しでも早く、便利につながることで、逆に東京依存を強めてしまう」側面があると感じるからだ。

2年後の開業へ建設工事が進む敦賀駅=2022年3月(写真:敦賀市提供)
敦賀駅の工事の空撮画像=2022年3月(写真:敦賀市提供)

北陸新幹線沿線でいえば、人口減少や経済力の低下が目立つ地域は、「かがやき」が止まる県庁所在地からのトリクルダウンを期待する、という立ち位置に置かれがちだ。しかし、沿線の小規模都市や周縁地域同士は、抱える地域課題やビジネスチャンスも相通じる点が多いのではないか。情報交換や議論を重ねるチャンネルができるだけでも、厳しい時代を生き抜くヒントが得られる可能性が高まる。

「コロナ禍の2年を経て、これから行動を起こそうと考える人の年代は若くなり、タフで、変化に対応する意欲が高い。私自身、新幹線にかかわったことで人生が変わった。今後も、新しいチャレンジで人生が変わる人が出てくるのが楽しみ。新幹線が『自分ごと』である人が増えて、新幹線が地域の『自分ごと』になってほしい」と平原共同代表。

北陸新幹線沿線連絡会議は4月1日、フォーラム参加者20人余りをコアに、Facebookグループとして本格始動した。今回、敦賀会場で司会を務めた大谷共同代表は「専従の事務局も予算もなく、今回のフォーラム参加者は完全に手弁当だった。顔の見える関係性をベースに、細くても長く続けられる活動にしたい」と語る。

コロナ禍は社会と経済、人々の意識を大きく変えた。まだ行く末は見定めがたいが、新幹線を取り巻くビジネスモデルを筆頭に、「元通りになる」ことはまず考えられない。今、沿線で最も必要なのは、「過去の成功体験」や「コロナ禍前への回帰志向」との決別と、「新たな未来をつくりつづける覚悟」のように見える。

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櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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