なだ万新展開､｢創業家引退｣が筋書だった！ 会長はアサヒ出身､次期社長は｢現代の名工｣

楠本社長は1993年に会長に退いており、後任の津田暁夫社長と二人三脚で経営を行ってきた。その津田氏は2009年に社長を退き、創業180周年にあたる2010年に楠本氏が社長に再登板したという経緯がある。なだ万のメインバンクを通してアサヒビールに買収の相談が持ちかけられたのは数年前から。アサヒの傘下に入ることを決めた時、楠本氏は自身の”引退”も決めていたのかもしれない。

創業家社長の後任に就くのが、現在、なだ万の専務取締役で調理本部本部長兼総料理長を務める木浦信敏氏（66）。1977年に同社に入社し、名古屋東急ホテル店の調理長などを経て、1995年に取締役に就任している。

アサヒ出身者と料理人社長の二人三脚

 「日本料理界の重鎮」（なだ万関係者）とも言われる木浦氏は輝かしい経歴の持ち主で、2007年に卓越した技能者である「現代の名工」として表彰されている。さらに2010年には黄綬褒章を受章。なだ万の『百八十年史』にも、「国内外の要人から高く評価され、なだ万の総料理長としての実績、および全国日本調理技能士会連合会など各業界団体での活躍や、厚生労働省管轄の技能五輪で競技主査を務めていたことなど、幅広い貢献が認められての受章」と書かれている。

アサヒビールは新しい役員体制の発表に当たり、「今後も184年の歴史の中で培ってきた日本料理の伝統を受け継ぎ、より高品質なサービスを提供することにより、国内外における和食文化のさらなる発展に貢献します」と説明している。創業家社長が退いた後、アサヒ出身の会長と名うての料理人である新社長で、どのような戦略を打ち出すのか。なだ万にとって2015年は大きな節目の年となりそうだ。

著者フォローすると、井下 健悟さんの最新記事をメールでお知らせします。