いつの間にかゲーム屋、それもなんか面白い--南場智子 ディー・エヌ・エー社長[下]
「人間バキューム」の迫力 メジャー化の悩み
「“南場さんが作った会社”じゃなくて、みんな、自分が作った会社だと思ってる」。南場が標榜するのは「球体型組織」だ。社員それぞれが球の表面積を担うセルとなって、おのおのの領域で会社を代表する。1枚1枚のセルが成長していくことで、ディー・エヌ・エーという球も大きくなる。決して、南場を頂上に据えるピラミッド型ではない。
南場はビッダーズ以降、優秀な人材を確保し、自分より経験も情報も持つ現場に権限委譲することを率先して進めてきた。若手には「ギリギリ頑張ってできるかどうか」の仕事を任せる。失敗しても、それが必ず成長につながると割り切っている。
自らの役目は、会社が進む方向性を明確に打ち出し、みんなの目線をつねに高く維持すること。世間に対しては“客寄せパンダ”を引き受けること、と思い定めている。
しかし、ディー・エヌ・エーの成長は、ただ単に権限委譲の成果ではない。社員の誰もが、南場に強く引き付けられている。社員だけではない。自分のファンドに無限責任を負う村口が大赤字のディー・エヌ・エーに2度目の出資を決断し、インフォテリアが自社の仕事を後回しにして、南場を助けたのは、なぜか。
南場の不可思議な人間力である。2年間社外取締役を務めたソネットエンタテインメント取締役の十時裕樹によれば、南場は、「パッションと合理性が同居する希有な人」。圧倒的にエネルギッシュで知的な南場が、同時に、あっけらかんと「私アホです。助けて」と自分をさらけ出す。その落差が強力なバキュームとなって相手を吸い込む。この人を助けなければ、この人のために頑張らなければ──。
だが、球体において南場はやはりセルではなくコアであり、球体が膨らめば、平均年齢31歳の球面のセルとコアとの距離は広がっていく。