「都会の視点で地方交通の問題は解決できない」 両備グループ 小嶋光信代表兼CEO

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こじま・みつのぶ/1945年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行勤務を経て1973年に両備運輸入社。両備バス(現両備ホールディングス)社長就任時にグループ代表にも就任。2011年から現職(記者撮影)

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新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛要請で、鉄道やバスなどの交通業界は大きな打撃を受けた。とりわけ影響が深刻なのは、もともと経営状況が厳しい地方の公共交通事業者だ。
岡山県を中心にバスや路面電車、鉄道などを運行する両備グループは、猫の「たま駅長」などのユニークな施策で知られるとともに、経営難に陥った交通事業者の再建を手がけ、全国の地方交通事業者の中でも注目を集める存在だ。両備グループの小嶋光信代表兼CEOは、地方公共交通のあり方や政策について積極的に提言を続けている。
苦境が浮き彫りになった地方の交通をどう維持していくべきか、小嶋代表に聞いた。

3つのエンジンがすべて止まりかねない

──新型コロナウイルスの影響で、地方の公共交通が大きなダメージを受けています。今後どのように推移するとみていますか。

今までの需要構造が一変すると思っている。

学校や職場に行かなければならなかった状況がリモートワークなどの普及で大きく変わり、地方公共交通では重要なお年寄りの通院需要もリモート診療のような形が増えるだろう。待っていればよくなるという環境ではない。

両備グループでも、6、7月の路線バス利用者数が前年比で約3割減、路面電車は5割減っている。年度内に以前の9割まで戻るかどうか非常に難しい。おそらく2~3年かかるだろう。全国的に見ても以前の9割まで戻ればベストではないか。地方交通事業者の8~9割はもともと赤字。わずかな黒字事業者も今後は赤字になってしまうだろう。

これまでは、路線バス事業が苦しければ観光バスや高速バスなどの部門で支えることもできた。それがコロナで観光も高速も厳しいとなると、3つのエンジンがすべて止まってしまう。

──コロナ禍を受け、特別補助金の新設や税の減免などの地方交通救済策を提言されました。現状の国の対策は不十分ですか。

推定では、全国の地方公共交通は4月以降の半年で赤字額が2000億円程度に達する可能性がある。これに対する充当はまったく不十分。

公共交通は不可欠な事業だからコロナ禍でも運行を維持してくださいと国は言うが、「外に出るな」「移動するな」という中で運行を続けて発生する膨大な赤字をどう補うのか。事業者に責任を押し付けて救済の手をさしのべないというのは悲劇的な問題だ。

もともと経営が厳しい事業者が大半で、さらにコロナ禍で利用者の回復が見込めない状況においては、もうこれまでの制度では維持できない。国として地域公共交通をどう維持していくのかを判断しなければならない時期に来ている。付け焼き刃やパッチワークのような対策では乗り切れなくなっていると認識すべきだ。

──地方公共交通の維持に向けた抜本策として何が必要でしょうか。

私が以前から主張しているのは、まず地域公共交通に関する法整備をきっちりし直すべきだということ。

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