電池技術者“争奪戦” 世界が獲得に血眼!
電池産業が集積する関西地域。人材紹介会社のジェイエイシーリクルートメント大阪支店では、月に1件あるかないかのリチウムイオン電池技術者の登録に対し、月間平均10件の求人が殺到する。登録が来たら即座に採用されていくような状況に近い。「09年までリチウムイオン電池の求人は細々だったが、10年春から自動車や素材業界からの求人がワッと入ってきた。求めている職種も、基礎研究、生産技術、営業分野と幅が広い」(同社の金本幸子・EMCチームアシスタントマネージャー)。
技術者獲得に焦る各社は、ヘッドハンターの活用も惜しまない。ヘッドハンティング国内大手のサーチファーム・ジャパンにも、それまでほとんどなかったリチウムイオン電池技術者の依頼が10年に入って急増した。現在3人のヘッドハンターが電池業界を担当しており、10年には6人の引き抜きに成功した。今も国内外の企業から抱えきれないほどの依頼を抱える。ヘッドハント会社に要請して人材を獲得した場合、その人材の年収の約3割を手数料として支払う必要がある。高額だがその分、転職市場に出ていない優れた技術者を採用できる可能性がある。
拡大する技術者需要に対して“供給元”となっているのが三洋電機、ソニーなど既存のリチウムイオン電池メーカーだ。各社の技術者は、徹底した社内OJTによって、発火事故を防ぐノウハウや、より安全で高性能な電池を作るための材料選択など、大学では学べない実務的な知識をたたき込まれている。
重要なのは、この種の技術者を擁する企業は世界でも稀少だということだ。現在のリチウムイオン電池業界は世界需要の8割を上位わずか7社で占めており、そのうち3社が日本の企業だ。1992年に、ソニーがリチウムイオン電池搭載の8ミリビデオカメラで世界初の事業化に成功して以来、リチウムイオン電池は日本のお家芸となってきた。
元ソニーのリチウムイオン電池技術者で現在技術コンサルタント会社を経営する藤原信浩氏は、電池産業におけるヒトの役割をこう強調する。「半導体や液晶のようにモノづくりのノウハウが装置に詰め込まれている産業とは違う。電池は『混ぜる』『こねる』といった、よりアナログな“経験知”がメインとなるため、人間の頭の中にこそ組織が有する技術のコア部分がある」。
そうなれば目下、電池技術者を欲しがる海外企業にとって日本の電池技術者が垂涎の的となっていることに何の不思議もないだろう。