トマ・ピケティ「21世紀の資本」が指摘したこと なぜ1%への富の集中が加速するのか
戦後も比較的平等な時代が続くが、1980年代後半くらいから米英では不平等化が再び一気に進み、戦前と同レベルまで戻った。これに対して、日、独、仏、スウェーデンの不平等化もある程度上がっているが、そこそこの段階でとどまっている。
大量のデータを集め、トップ1%、0.1%などに富の集中化が進んでいることを示したことがピケティの「資本論」が与えた何よりの衝撃だ。データ量で勝負し、反論があるならデータを見ろというのがピケティのスタンスになっている。
米国では金持ちが選挙に大きな影響力を持っているため、金持ちへの富の集中は民主主義の根底にかかわるものとなっている。トップ層への富の集中は、経済的だけでなく政治的にも重要な意味を持つ。
こうしたトップ富裕層への富の集中は、伝統的な説明では説明しきれない。たとえば技術進歩やIT化にしても、1%の富裕層に熟練スキルが集中しているとは考えがたい。グローバル化や保守化で一部は説明できても、全体は説明しきれない。
不平等の原因、ピケティの指摘は?
ピケティが提示した説明は、最近の不平等の拡大(=トップ層への富の集中)は、資本主義そのものに内在する論理だという点。マルクス的に、資本主義というのは自由放任にすると富が一部の人に集中する傾向を持っていることを指摘した。
ピケティが示した不等式は、利益率(r)> 成長率 (g)というもの。資本からの利益率がrで、経済成長率がg。利益率と成長率は資本主義では共に成長していく傾向がある。しかし資本、つまり富を持っている人の所得は、たとえば富をすべて投資すれば利益率rで伸びていく。これに対して賃金所得中心の一般の人の所得はGDPと並行して成長するためgで伸びていく。これにより不平等はどんどん拡大していくというのが、この不等式から出てくるピケティの考え。つまり資本の論理そのものが不平等を拡大させる。
そして、クズネッツカーブについては、大恐慌から戦時期につながる一時的な特殊現象を一般化したにすぎないと批判した。
このまま進むと不平等がさらに拡大し、民主主義も危うくなってくるため、それを防ぐためには資本の論理に対抗する政策が必要だというのがピケティの主張。そのために提唱したのが国際累進資産税である。
ピケティにとって、最も重要な変数は資本。ただ、ピケティは国際比較、更に時系列比較のためには、資本量それ自体ではなく、資本と所得の比率(β)を用いた。資本が何年分の所得に対応するかを示したもの。これを資本の尺度として使うことで、異時点間、異国間の為替レートなどの変動の影響をコントロールして比較できる。
資本所得比率(β)で見ると、ヨーロッパの19世紀はバルザックの小説に出てくるように非常に不平等で、その後、戦争、革命、民主化、大恐慌などで富のレベルが落ちる。しかし、1980年代くらいから富の集中が再び起きている。ただこの表で疑問なのは、米国があまり大きく変化していないこと。これとピケティの理論との整合性はわからない。
※ 続きは12月22日(月)に掲載します。
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