トマ・ピケティ「21世紀の資本」が指摘したこと なぜ1%への富の集中が加速するのか
1%の衝撃
これはトップ1%の所得者が全所得の何%を占めているかというデータで、「いちばん恵まれている人への富の集中度」を示す不平等の新しい尺度だ。従来のジニ係数や相対的貧困率といった経済全体の平均的な不平等を示した指数とは異なる視点のものといえる。トップ1%への富の集中度で見ると、2つの大戦前は非常に不平等な社会で、トップ1%に富の20%弱が集中していた。大恐慌あたりからその数値は落ち始め、しばらく6~8%の集中度の時代が続いた。しかし、1980年代後半以降に再び集中度は高まり、現在は再び20%程度になっている。
言うまでもないことだが、1960年代後半くらいから経済学では新古典派あるいはシカゴ学派が台頭し、1980年代にレーガン政権が新古典派経済学の影響を受けた経済政策を実施した。こうした新古典派の台頭とその政策への影響力が、1980年代後半以降の上位1%への富の集中に影響を与えているのではないか。また、ウォールストリート占拠運動も上位1%への富の集中を批判し 「We are the 99%」を掲げており、ピケティらのデータが非常に重要な役割を果たしている。
従来の不平等論でよく使われたのが、クズネッツの逆U字仮説(クズネッツ・カーブ)だ。これは、経済発展の初期段階では所得格差は低く、その後、産業資本主義が発展するにつれて格差が広がり、さらにある点を超えると今度は、サービス産業化、民主化などにより平等化が進むという仮説である。実証的にもある程度のサポートを得ていて、クズネッツカーブはおおかた正しいというのがコンセンサスだった。このことが、平等化のためにまず必要なのは、国が豊かになることである、という主流の政策思想にもつながってきた。
ただ、最近、クズネッツの逆U字仮説と矛盾するデータが出始めてきた。いわゆるジニ係数が1980年代から先進民主主義国家で軒並み上がり始めている(ジニ係数は上がると不平等度が上がるという指数、次ページグラフ参照)。クズネッツ仮説に反して、世界の不平等化が進んでいるということが示された。
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