「日本人は、衆知を集める国民やね」 神代から変わらぬ独断専行を嫌う国民性

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聖徳太子さんは『十七条の憲法』を定めておられるけど、あの中にも、独断で物事を決めたらいかん、必ず多くの人と議論して決めなさい。多くの人と議論を尽くせば、物事の真理も明確になると言うてるね。これも衆知を集めることが大切やという表れやな。

戦国時代というと、きみ、大将が独断でやっておったように思うけど、名君良将といわれた人は、ほとんどが衆知を集め、家臣の声、世間の声を聞き相談して事を決しておるわけや。早い話、あの信長でさえ、桶狭間の合戦のようなときでも、結果としては、ただひとり、城をうって出るということをしておるけど、それでもやはり、その前に、重臣たちの意見を聞いとるわけや。そのうえで、その衆議を上回る知恵を自ら生み出しておるわね。徳川幕府においても、将軍を補佐する複数の老中をおいて、そこで衆知を集めて政治を行っていたとも言われておる。

このように、武士の時代、封建時代にあっても、やはりその時その時、その場その場に応じて、できるかぎり衆知を集めながら最善の道を求めて、共同生活の運営をしていくということが行われてきたわけや。

うん? 『五箇条の御誓文』? そう、明治になって明治天皇さんが政府に示した基本方針やわね。その後の日本の国家経営、国民活動の根本指針とされてきたけど、その第一条にも「広ク会議ヲ興シ、万機公論ニ決スベシ」とあったわな。これもやはり、長年にわたって培われてきた、衆知によって事をなすという日本の伝統精神が表れたものだと考えられるわけや。

衆知の力が日本文化を作り上げてきた

日本人は、海外からも衆知を集めて、この日本を発展させてきた。言い換えれば、外国のよいもの、すぐれたものを受け入れ、それをわが国に合わせて改良し活かすことによって、日本を高めてきた。たとえば、古来中国からいろいろと学んだ、まあ、衆知を集めたんやな。それを長い間に消化吸収して、日本独特の文化を作り上げている。

さらに、近代に入ってからも、欧米先進国の進んだ科学技術や産業の知識、法律などの制度、思想を受け入れてきた。ここでもまた、欧米諸国の衆知を集めたと言えるな。『五箇条の御誓文』の「知識ヲ世界ニ求メ、大ニ皇貴ヲ振起スベシ」とあるわね。天皇さんの言う通りに、やっとるわけや、日本人は。まあ、欧米から入れても、これらもまた、日本的なもの、より優れたものに改良してるけどな。

日本人は、2600年の間に、国内では、いろいろな形でつねに衆知を生かしつつ、また一方では、広く海外の衆知を吸収し、それによって日本を今日の姿にまで発展させてきたわけや」

このような松下幸之助の話を、私は、なるほどと合点しながら、興味深く聞いていた。外は、もう暗くなっていた。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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