インド新戦略車はトヨタを救えるか(上)

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エティオスのチーフエンジニアである則武義典氏は、最大のセールスポイントを「室内の広さと収納スペース」とする。事前の調査では、「安いからハッチバックを選んでいるが、いつかは広々としたセダンに乗りたい」という声が多数寄せられた。ゆえにエティオスの開発では、「フォーマルなザ・セダンをつくる」という方針が基本となった。そのうえで、他社のハッチバックと競合できる価格まで近づけるべく、ギリギリの努力が続けられた。

「エティオスの販売に際してセダンを先行させることが決まったのは9月。価格の最終決定は11月に入ってからで、結果の報告は豊田社長にまで上がった」。TKMの幹部はそう語る。トヨタとしても失敗できない戦略車だけに、現地の需要を直前まで見定めた。

エティオスの顧客として想定するのは、年収60万~90万ルピーのアッパーミドル層。全土で350万世帯ほどと推定される。

デリーに本拠を置く市場調査会社、インフォブリッジの繁田奈歩社長は、「外資系企業勤務なら入社10年ほどで、月収3万ルピー程度には到達する。共働き世帯や親と同居している未婚者なら、エティオスに手が届く」と読む。トヨタがようやく、一部の富裕層や法人客以外の中間層にも向き合った、というわけだ。

ようやく新興国市場に真正面から取り組む

インドは現在、中国に続く成長市場と見られる。トヨタも15年には400万台市場(09年226万台)に育つと予測する(09年226万台)。だがトヨタがインドに進出した97年当時、そこまでの期待はなかった。アジア通貨危機直後のせいもあり、インドネシアで製造していた多目的車「キジャン」の生産設備を転用するなど投資を最小限に抑制。現代がインドを輸出拠点に育てることを前提に、当初から大規模生産を志向したのと対照的だ。(下に続く)

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(週刊東洋経済2010年12月18日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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