「駐在武官」を機能させるために必要なこと 増員だけでは強化にはならない

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防衛省の情報収集強化は防衛駐在官の増員だけではない。本年10月、岩田清文陸上幕僚長がワシントンDCで13~15日に開催されたAUSA(アメリカ陸軍協会)主催の年次総会に参加した。岩田陸幕僚長はアメリカ陸軍主要将官などとの懇談、フォーラムにおける講演、最新陸上装備の視察など行なう予定となっており、廣恵情報通信研究科長など他4名が同行した。

岩田陸上幕僚長

AUSAはアメリカ陸軍及び陸軍軍人の利益増進を図ることで、国家の安全を支援するために1950年に設立された非営利団体だ。その年次総会では見本市も開催され、ロッキード・マーチンやレイセオンなど大手を含む多くの防衛関連企業が出展し、北米最大規模の軍事見本市となっている。このため各国の陸軍参謀長、国防政策担当者など政府高官が招待されている。陸上幕僚長がこの種のイベントに参加するのは初めてのことだ。

陸自のトップがこの種のイベントに参加する意義は大きい。このような見本市やセミナーではホスト国の主要将官だけではなく世界中から将官が集まるので「トップ外交」が可能になる。いままで皆無に近かった日本のプレゼンスが増大する。

言うまでもないが軍隊は階級社会であり、駐在防衛官して派遣された一佐(大佐)や二佐(中佐)が相手国の将官、ことに参謀長などの高官と気軽に会えるわけではない。またこのような見本市などの機会に自衛隊の高位の将官が、現地に派遣されている防衛駐在官を先方の参謀長などの要人に紹介してまわれば、防衛駐在官は極めて有力な人脈を短期に構築できる。これは中国を始め諸外国では当たり前に行なわれていることだ。

岩田陸幕長が今回そのようなこと行動を行ったのかは不明だが、ぜひとも今後、防衛省・自衛隊高官による見本市やコンファレンスなどへの視察を強化し、現地での信頼熟成を行って日本のプレゼンスを拡大し、併せて防衛駐在官を側面支援して欲しいものだ。
防衛省は来年にロンドンで開催される軍事見本市、DSEIに出展を計画している。その際にも幕僚長クラスの視察が行われる可能性は高い。

なぜ外務省に出向してから派遣なのか

ただ防衛駐在官そのあり方には大きな問題がある。諸外国では国防省から軍人の身分で派遣されるが我が国では「外交の一元化」の元に、防衛省から一旦外務省に出向して、外交官の身分で防衛駐在官となる。外交官が「軍服」を着るのは一種のコスプレである。このような奇妙な制度を採用している国は筆者の知る限り我が国だけである。

問題は外務省と防衛省とでは、防衛情報に対する認識にきわめて大きな温度差があることだ。軍事を毛嫌いする公家的な外交官も少なくない。例えば軍事見本市の式典やレセプションに出席をしない。アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで行なわれている世界最大級の軍事見本市、IDEXは、国威をかけたイベントであるが、筆者が知る限り日本大使館関係者が出席したことはない。アブダビ日本大使館には防衛駐在官がいないが、大使が出席すればいいのだが、顔を出さない。隣国のサウジアラビアには防衛駐在官が配されているが、それも顔をださない。対して中国は武官や大使館の文民職員は勿論、常に10名以上のデリゲーションを派遣してプレゼンスを誇示している。

南アフリカのAADにおける海老名健一・二佐

途上国ではこの種のイベントは国家の威信がかがっている。特にアラブ世界は尚武の気風が強い。このようなイベントに防衛省からデリゲーションが派遣されず、現地に防衛駐在官もおらず、大使も顔を見せないというのは外交上、プレゼンスの維持の面でも極めて大きな損失である。

防衛省もこのような見本市に代表団を派遣し、中国のデリゲーションと接触して情報交換や信頼熟成の場として利用することも必要なはずだ。

南アフリカで隔年行われる軍事航空見本市(AAD)もこれまで日本大使館関係者が出席することはなかった。だが先述のように本年、南アフリカに初めて防衛駐在官(海老名健一・二佐)が配され、式典に出席した。また複数の大使館スタッフも見本市を視察している。これも防衛駐在官が配されたからだろう。

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