実質金利が低い今は借金を増やす好機だ--ロバート・J・ シラー 米エール大学経済学部教授
多くの国で、実質長期金利(インフレ連動債の金利)が過去最低の水準にまで落ち込んでいる。この事実は、経済的に極めて重要な意味を持つ。企業にとって実質長期金利は、新規事業の立ち上げや事業拡大の際の借り入れコストを計る、直接的な尺度だからだ。財政赤字削減の必要性が叫ばれる中、実質長期金利は低水準で推移している。
ドル、ユーロ、元といった各国の通貨ベースの名目金利を解釈するのは難しい。なぜなら、借り入れの実質コストは、予測困難な将来のインフレ率によって決まるからである。
もし4%の名目金利で資金を借りれば、毎年、元本の4%の額を返済しなければならないことはわかる。だが、将来のインフレ率が読めないので、実質的な返済額はわからない。インフレ率が金利と同じ4%ならば、実質的にはタダで資金を借りることができる。インフレ率が金利よりも高くなれば、インフレ利得を得ることさえできるのだ。一方、インフレ率がゼロならば、高い実質金利を払うことを強いられる。
経済学者は、インフレ連動債の利回りから満期の同じ国債の名目利回りを引いて、現在から満期までのインフレ率を推定している。そうした手法で将来のインフレ率を予想することは、不可能とはいわないまでも非常に雑なものだ。たとえば2008年の金融危機の際、アメリカのインフレ連動債の利回りは一時急騰し、7年間の予想インフレ率は突然マイナス1・5%にまで急落した。
インフレ連動債の利回りは、興味深い経済変数である。その動向を見れば、投資家と借り手が実質ベースの将来の金利をどう予測しているか、知ることができる。その情報に基づいて、起債者(すなわち借り手)は設備投資に必要な借り入れ計画を立てることができるのだ。
財政赤字の増大にもかかわらず、インフレ連動債市場の役割は今も損なわれていない。インフレ連動債を発行している国は比較的少ないが、アメリカ、カナダ、イギリス、ユーロ圏の長期のインフレ連動債の利回りは年率で1%程度にまで低下している。メキシコやオーストラリア、ニュージーランドなどの国々では若干高く、2%程度である。これは過去の水準と比較すると非常に低い。