中国の常軌を逸した行動の裏にある不安--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト


 しかし、アジア諸国は中国に対する態度を変えつつある。共産主義国家であるベトナムを含む東南アジア諸国が、クリントン米国務長官の訪問を温かく迎えたのは、中国に対する恐怖心から、「パックスアメリカーナ(アメリカによる平和)がアジアでもっと長く続いた方がよい」と感じているからだ。日本と関係が薄い国も、アメリカに代わる中国への対抗力を期待して日本に接近するかもしれない。これは中国の望むところではない。

国家主義に走る二つの理由

それにもかかわらず、なぜ中国は強硬になっているのだろうか。

一つの説明は、中国は新しい大国の地位に少しばかり酔っているというものだ。過去200年で初めて、中国は高圧的になれる立場に立った。ほかの国がどう考えようが、自分の思いどおりにできるのである。最近の中国の行動は、1世紀にわたり大国から味わわされた屈辱への復讐ともいえる。

だが、この説明では納得できないかもしれない。むしろ実際は、強硬な外交姿勢は中国の指導者の国内での脆弱な立場を示している、ともいえる。少なくとも1989年以降、中国共産党が権力を独占する正当性は希薄だった。共産主義イデオロギーはもはや消滅している。89年6月の天安門事件の際に、市民を殺戮するために人民解放軍を用い、一党独裁の正当性はさらに損なわれてしまった。

中産階級の支持を得る方法は高成長により、さらなる豊かさを約束することだ。マルクス主義の死によって生じたイデオロギーの真空は、国家主義によって埋め合わされた。中国の国家主義は、教育やメディア、“愛国的な”記念碑や美術館を通して普及した。そこで教えられたのは、共産党が確固たる支配を確立することによって、外国人、特に西欧人と日本人が再び中国人を辱めるのを阻止するということだった。

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