なかなか普及が進まなかった洋式の裾野を広げ、起爆剤となったのが、1960年代の高度成長期に大都市圏で建設された公団住宅だ。イスとテーブル、洋式便器が標準装備された。「家の中にあれば自然に使い慣れて生活になじんでいきます。そうして、やっと1977年に和式便器と逆転した。2013年度のTOTOの出荷数は、洋式が99%、和式が1%です」。
「便器」の進化、いかに少ない水で流せるか
ここからはトイレの進化を、「便器」と「便座」に分けてたどっていく。まずは便器。主に水の流し方の改良である。
1959年に発売されたタイプにはタンクの水を「大」と「小」で切り替えるレバーがついていたが、1回の「大」で使用する水は約20リットルだった。大きいペットボトル10本分だから大量である。「当時はまだ節水よりも水道代の節約という観点でした」。
1970年代にオイルショックや公害問題が起こり、環境への配慮が高まる。そこで1976年に「節水便器」が登場。1回13リットルにまで落とした。
いかに少ない水で流せるか、TOTOの挑戦は続く。「便器ボウルの中から汚物を流す“排水能力”だけではいけない。下水管の中でも押し流していける“搬送能力”が重要なのです」。
タンク式はためた水の重みで勢いをつけて流す方式だが、デメリットは1回流すと、タンクに水がたまるまで流せないこと。うまく流せなかったときに、トイレの中で待ち時間が生じてしまう。日本の狭いトイレ空間ではタンクのスペースも邪魔になる。
それを解消したのが、1993年に発売された日本初のタンクレストイレ「ネオレスト」だ。
タンクに水をためずにどうやって流すのか。「便器ボウルの中を洗う水と、下水管へ流し切る水のタイミングをマイコンで制御して流す」。コンピュータを搭載したのである。これで1回8リットルにまで減った。
便器ボウルの表面も重要な要素だ。つるつるしていれば、そもそも汚れがつきにくく、少ない水で流せる。だが、便器は焼き物だから凹凸がある。ミクロレベルでも凹凸があると、そこに汚れがたまり、菌が住みついてしまう。そこで特殊な釉薬を吹きかけて焼くTOTO独自の防汚技術「セフィオンテクト」を1999年に開発した。こうした複合的な技術が節水効果を高め、掃除の回数を減らすことにもつながる。
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