81歳創業者は、なぜトイレを素手で磨くのか イエローハット、世界のトイレ掃除に挑む!

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 日本のトイレはもはや排泄するだけの場所ではない。日本人の「清潔好き」と「技術力の高さ」が相互にトイレ環境を磨き上げ、独自の発展を遂げ、かつてない高みに到達している。この特集では、日本のトイレ文化が世界にもたらす未来について、5日連続で紹介していく。2日目は、イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんにトイレ掃除の効用と世界のトイレ事情を伺う。
1日目「日本のトイレは排泄するだけの場所じゃない!」はこちら。
 トイレ掃除をするイエローハット創業者の鍵山秀三郎さん

社内のトイレ掃除をたった独りで始めたワケ

──イエローハットを創業された昭和36(1961)年、28歳のときに社内のトイレ掃除を独りで始められたと聞きました。以来、トイレ掃除の活動を53年間も継続されています。きっかけは何だったのですか。

鍵山:いろいろな理由がありますが、大きな理由としては、ちょうど高度成長期に差しかかった頃で、社員の心が荒れていたんですね。カネを稼げばいい、今さえよければいい、自分だけよければいい、という風潮に世の中全体が急速に変わってきた。

鍵山秀三郎(かぎやま・ひでざぶろう)●イエローハット創業者、NPO法人「日本を美しくする会/掃除に学ぶ会」相談役。1933年、東京生まれ。1952年、疎開先の岐阜県立東濃高校卒業。1953年、デトロイト商会に入社。1961年、ローヤルを創業し社長に就任。1997年、社名をイエローハットに変更。1998年、同社取締役相談役となる。創業以来、続けている「掃除」に多くの人が共鳴し、近年は掃除運動が内外に広がっている。

創業間もない会社だったため、採用面接に応募してくるのは、履歴書に書き切れないぐらいたくさんの会社を渡り歩いてきた方が多く、心がすさみきっていたというのもあります。

こうした社員の心を穏やかにするためには、まず職場環境をきれいにすることが大事だと思いました。汚い環境の中で、彼らに「ちゃんとしろ」と言ったってできるわけがない。まず私が環境をきれいにしてから、伝えるべきことを伝えていこう、と。その第1番がトイレ掃除であり、社屋の掃除でした。社屋といってもバラックでしたけども(笑)。

まず社内を掃除して、やがて近隣周辺、取引先のお店の周囲やトイレ掃除をさせていただくようになりました。本当は社員にもやってもらいたかったけれど、誰もやりたがらないでしょうから独りで始めました。

──命令はしなかったのですね。

鍵山:命令したってやるもんじゃないですよ。また命令されてやることは、絶対に本物にならない。規則で決めたり、当番制にしたりしてもダメ。心からそうしようと思わないと身に付きません。

──社員の方々の反応は?

「掃除なんかしても無駄だ」「うちの社長は掃除しかできない」と陰で批判する者もいましたし、私がトイレ掃除をしている横で用を足していく者もいました。最初の10年間は私独りで掃除をしていて、手伝おうという社員は1人もいませんでした。

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