カップ麺がマンション防災に向かないワケ その災害マニュアルは戸建て向けだった!

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たとえば、非常用発電機が地下倉庫にあり、1階の離れた場所にある貯水槽へ持って行こうとしても、女性や高齢者では重くて運べない。負傷者を担架で運ぶにも高齢者には骨が折れる、などのケース。防災訓練でわかることが多いが、実際の災害が先に来てしまったら大変なことになってしまう。

備蓄倉庫にある非常食としてカップ麺はポピュラーだが、意外に使い勝手が悪い。まず、お湯が必要で貴重な燃料を消耗する。また、沸かしたお湯は1回カップに入れたらおしまい。もし残しても、捨てるしかない。カップ麺を備えるなら、それを食べるための燃料と水は飲料水とは別に確保しておくべきなのだ。

子どもの頃からよく言われた、「地震が来たら机の下へ避難しろ」というのも、マンションでは逆に危険な場合もあるので要注意だ。マンションの高層階では横揺れが激しくなるので、固定していない家具は飛び回るように動く。物が置いていない廊下のほうが安全な場合もあるのだ。

「断水に備えて、風呂に水を貯めておけ」も、マンションでは間違いだ。水漏れの恐れがあるし、配管が破損していないか業者が確認するまで水を流せないので、部屋で水を腐らせてしまうからだ。こうした対策はもっぱら一戸建てが日本の住居の中心だった時代のノウハウなので、マンションにはマンション用の防災が必要になるのだ。

日頃の住民の接し方でも災害対応度はわかる

マンションの理事たちに話を聞くと、「防災訓練をやっても人が集まらない」「そもそも管理組合の活動に不参加の住民が多い」といった悩みも聞く。いざという時に住民同士、あるいは地域と協力し合うには、平時のコミュニケーションが欠かせない。

週刊東洋経済2014年12月6日号(12/1発売)の特集は「マンション防災修繕管理 完全マニュアル」です。大地震は間違いなく起きる。多くの住民が住むマンションは自助、共助のバランスで災害対応力を高めるのが大切。最前線を追いました。

マンション防災の達人といえる理事会が熱心に行っているのは、本番さながらの高度な防災訓練だけではない。それ以上に重要なのは、日常的な住民のつながりを深めるイベントや仕組み作りだ。防災訓練にしても、子どもが非常用設備を回ってくるスタンプラリーとか、賞味期限切れが近い非常食を使った炊き出しなど、集う楽しみを付加している。

東京都中央区など、地域での防災対策に取り組むマンションへの支援を積極的に行う自治体も増えてきている。人任せにしないマンション防災を、住民一人ひとりが真剣に考えるべき時期にさしかかっているのではないか。

山川 清弘 東洋経済『株式ウイークリー』編集長兼「会社四季報オンライン」副編集長

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やまかわ きよひろ / Kiyohiro Yamakawa

1967年、東京都生まれ。91年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。98~99年、英オックスフォード大学に留学(ロイター・フェロー)。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)など。

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