失策続きの安倍政権だが、増税延期は正しい 増税の悪影響を軽く見てはいけない

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12年当時、消費増税法案を通過させようと、日本が「ギリシャの二の舞い」を演じかねないと主張する者も財務省にいた。だが欧州で実際に金融危機に見舞われたのは、政府債務に加え、多額の対外債務を抱えていた国に限られていた。

ベルギーやフランス、ドイツなど、同じように多額の政府債務を抱えていても対外債務が限られていた、あるいはなかった国では危機は発生しなかったのだ。日本は国際的には債務国ではなく、むしろかなりの債権国だ。

日本が自らの借金を自分で負担しているからこそ日銀は低金利を維持できているにもかかわらず、黒田東彦総裁は、増税の先延ばしは金利の急上昇につながる、と主張している。

11月上旬現在、日銀は10年物国債の利回りを過去最低水準に近い0.46%まで下げることに成功している。さらに日銀は金融緩和策の一環としてすでに多額の国債を買っている。ほかの投資家による国債保有高は、安倍氏が再び首相に就任する前はGDPの154%だったが、今年6月現在には同143%に減少している。

10月31日に決めた金融緩和により、日銀は年間80兆円の国債を買うことになるが、これは日本政府の年間財政赤字の2倍近い額であり、民間による日本国債保有高はさらに減少する。

日銀は危機の可能性を抑えている

つまり、日銀は債務危機を回避するためには安倍首相による増税が必要であると声高に叫ぶ一方、他方では借金を肩代わりすることでその危機の可能性を抑えているのだ。

もちろん政府は永遠に巨額の借金を繰り返すことはできない。とはいえ、日本には真の回復を推し進めるだけの時間が十分に残されているのではないか。まだヨチヨチ歩きの回復の首を増税によって絞める必要はどこにもない。

増税を一定期間延期するよりも、景気回復が一定の基準に達した暁には増税する、と発表するほうが賢明だろう。基準の1つとして、実質賃金が上昇し始めた時が考えられる。

週刊東洋経済2014年11月29日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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