調査はこれらの質問項目に沿って、クラスの児童の言動を担任教師が評価するものだった。各児童について75の質問項目に当てはまるかどうかを教師がチェックし、点数化する。ある点数以上ならば、学習面や行動面で「著しい困難を示す」と判定され、発達障害の可能性が示される。
教師の点数評価で障害を判断することに、一部の教員からは強い反対の声が上がった。当時、都内の公立小学校に勤めていた片桐健司教諭も、調査に反対した一人だ。片桐教諭は、障害のある子どもの就学や学校での悩みについて相談を受ける「障害児を普通学校へ・全国連絡会」の運営委員で、障害児を通常学級で受け入れてきた。
調査の問題点について、他の教員宛てに片桐教諭が送った当時のメールには、次のように書かれている。
「保護者や本人の知らないところでの全児童生徒の調査であり、その結果が一人歩きする可能性がある」
保護者からも、調査に反発する声が上がった。当時、息子が通う中学校に調査中止の要請をした郡司實さんは「誰にも当てはまりそうな項目で、なぜ障害と判定されるのか。障害児の選別が強化されると感じた」と振り返る。
【2022年4月1日12時30分追記】初出時の表記を一部修正いたします。
教員の主観で評価が変わりうる
東京都公立学校教職員組合(東京教組)は、東京都教育委員会に対する要望書で、「質問項目が非常に抽象的であり、捉え方が教員によってはまちまちになる。このように教員の主観で評価が変わりうる質問項目を数値で集計する方法は、信憑性にかける」と疑問を投げかけた。
対して東京都教育委員会は、「複数の教師(担任だけでなく学年主任・主幹等)で協議し判断することを留意点として伝えている。教員は評価をする専門家であるのでそのような心配はない」と答えていた。
現在も特別支援教育の支援員として小学校に勤務する、前出の片桐教諭はこう指摘する。
「教員は『独特な目つきをしている』などといった指標で児童を数値化して、子どもの障害の有無を判断するべきではない。調査によって、まじめな教員ほどこうした観点で子どもを見るようになり、『あの子は発達障害だ』と思うようになる」
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