がん患者1700人治療医師がYouTubeで語る真実 「標準治療」にまつわる誤解はなぜ多いのか
標準治療は見方を変えると、国が認めた“推奨治療”だ。国が国費(健康保険料)を払っても問題ないとお墨付きを与えた、安全かつ効果のある治療といえる。
標準治療は一般的にこんな感じで決まっていく。あるがんに対して、Aという治療薬が開発されたとしよう。そのAが本当に効くのかを調べるために、無治療のグループとA薬を使ったグループで臨床試験を行い、効果を比較する。その結果、A薬を使ったグループのほうが有効ならA薬がそのがんに対する標準治療となる。
さらに、医学が進歩してBという新薬が登場したら、今度はA薬のグループとB薬のグループで臨床試験を行い、有効性を比較する――。このようなプロセスを積んでできあがったのが、標準治療なのだ。
当然ながら、がんの種類や進行度、がんの特性(遺伝子の変異など)によっても標準治療は変わるし、時代とともに進化していく。また標準治療は必ずしも1つではないことも多く、患者の体力や希望なども考慮されている。
「大事なのは標準治療をどう利用して、患者さんの状態や希望に添ったものにカスタマイズするか。どの治療が適切なのかを考えるのが私たちがん治療医の役割ですし、それこそが本当の意味でのEBM(Evidence-Based Medicine・科学的根拠に基づいた医療)といえます」(押川さん)
標準治療にある落とし穴
ただ、標準治療にも落とし穴がある。その1つが、がんになったら誰もが標準治療を受けられるとは限らないという点だ。
「臨床試験は薬の有効性を検証するための試験です。つまり、膨大なコストをかけて薬を開発した製薬企業からしたら失敗したくない。しかも、臨床試験で見るのは有効性だけではありません。安全性という意味から副作用もしっかり検証します。その結果、臨床試験の被験者は、副作用が起こりにくいとされる“比較的若くて持病が少なく、体力のある患者さん” が好まれて選ばれやすい。そこを忘れてはなりません」
押川さんによると、特に問題なのは年齢だという。高齢者がかかりやすいがんでは、治療ガイドラインが定めた標準治療のレジメン(治療計画)がそのまま使える患者は、治療によっても異なるが、6~9割程度。比較的エリートな患者でなければ受けられない治療なのだ。
ただ、年齢という因子には抗えないが、ほかのファクターは自分次第で変えることができるともいえる。まずは日常活動度が高いことが、がんと診断されたときに標準治療を受けられる大事な条件になる。
「ですので、まずは、体力を付けておくこと。実は元気な人ほどがん治療はうまくいき、副作用も軽くなる傾向があります。治療によって体力が落ちることも多いので、それを見積もっても元気でいることはとても大事です」(押川さん)
体力を付けるためには、当たり前のことながら、バランスのよい食事と定期的な運動を日課とすることも大切。治療中や治療後に体が動かせないと筋力が落ち寝たきりになりやすい。それを防ぐためにも運動で筋力をつけておきたいところだ。
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