テレビが助長する「日本人特殊論」の功罪

「日本、喪失と再起の物語」を読む

では日本的なるものとはなんなのだろう。あるいはそんなもの存在しないのだろうか。本書にその答えはない。しかし、日本的なものと思い込んでいたものが、必ずしもそうではないと理解したとき、私たちは日本とはなんなのか? という問題をあらためて真剣に問う事が可能になるのではないだろうか。

バブル崩壊後、坂を転げるように下り続ける日本経済をみて、国内外から発せられる日本衰退論にも著者は懐疑的である。さまざまな企業の業績や事細かな数字を示しながら、日本が、なお国際的に大きな役割を担うプレイヤーである事を丹念に説明する。しかし、その一方で、日本の成長神話が終わりを迎え、かつて日本人が信じてきた、すべての国民が中流階級でいられるという認識は日本国内でも急速に変わりつつあることも記述されている。

もはや約束された道はない

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この点に関しては、作家の村上春樹や『絶望の国の幸福な若者たち』の著者である古市憲寿といった人々に丹念なインタビューを重ねることにより、無限級数的に発展した経済と、社会が決めたルールに従うことで確実に豊かさを手にできる「約束された道」の終焉と、そこから新たな道を見つけようとあがく日本社会をリアルな形で掘り出すことに成功している。

本書は原註を除いて610ページにも及ぶ作品だ。論じられているものも、政治、経済、社会、文化、外交と多岐にわたる。また多くの日本人の個人的なストーリーを織り交ぜ、さまざまな分野でその分野のキーパーソンの言葉を巧みに記述することにより、複雑で膨大な内容の日本論に血の通った温かみを持たせることに成功している。

日本人は自らが本質と考えるものを守るため、ときに大胆にその社会を変容させてきたと著者は言う。今の日本社会はまさに変化の過渡期にある。私たちは何者で、どのような社会を築いていきたいのかという問いを多くの人々が問い続けているのではないか。

本書はその問いを考えるための原点に私たちをいまいちど立たせてくれる。そんな作品ではないだろうか。

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