相手の気持ちを察し、自分本位を慎む--『誰も教えてくれない男の礼儀作法』を書いた小笠原敬承斎氏(笠原流礼法宗家)に聞く
──食事の作法にも詳しいようです。
食事の作法でその人の印象が決まることはとても多い。食事は食欲と結び付いており、欲という言葉が使われるぐらい、その人の本質が見えるもの。たとえば、伝書の中には「貴人を見合わせて喰うべし」とある。食事のペースをすべて相手と合わせるのが大事と。それも、話に没頭してしまって、せっかく出されたものの時機を逸して食するのでは、作り手に対する感謝もなくなる。食事を進めていくスピードも心掛けよ、とある。
──箸の遣い方も大事な点ですね。
ただ単に堅苦しいことを言っているのではない。正しい箸遣いは、箸先を汚さず合理的で、細かいものを取る、裂く、ちぎるなどの動作が容易になる。「箸先五分、長くて一寸」といわれる。箸先の汚れは少ないほどよい。同席者がこちらの箸先に視線を向けた際、不快な印象を与えずに済む。渡し箸も気をつけるのに越したことはない。最低限のルールは守りながら、カジュアルな席では楽しく食事を進める。正式な作法をすべてにわたって使いなさいというのではなくて、省略するところと、そうでないところを見極める判断力が大事となる。
──姿勢においては「胴つくり」がキーワードですか。
胴つくりとは正しい姿勢を取るということ。前後左右に傾くことなく、どんな状況でも安定した姿勢を取っておく。この胴つくりについてぜひ伝えたいのは、表情が姿勢の一部であり、目は心の窓といわれ、心のありようは目や表情に出てくるということ。
もちろん口角だけを上げて笑顔を作ろうとすると、どうしても冷たい印象になる。目を通じて気持ちを伝える。その際、心の安定がないと、姿勢に反映させることはできない。気持ちが入っていないと、胴つくりは完成しているとはいえない。