ソニーはわずか十数人の創業期、社員が食べていくために炊飯器や電気毛布を開発して販売していました。そのような時期に、創業者のひとりである井深大氏は「会社の設立趣意書」を創り上げています。
【ソニーの会社創立の目的】 ※書籍『ビジョナリー・カンパニー』から筆者が現代語訳
このような大胆な目標があったからこそ、十数人の小企業ソニーはそのときの現状に甘んじることなく世界に挑み、やがて世界のソニーになったのです。また大胆な目標が組織にとって有益なのは「それが達成されていない間だけ」だと本書は強調しています。ぬるま湯から引き離す力を持つ理想、進歩の必要性を突き付ける新たな目標こそが必要なのです。
残念ながら現在、ソニーは凋落が指摘されています。世界のソニーと呼ばれた輝かしい時代が過ぎ、多くの夢を達成したあと、ソニーは将来の成功に自らを牽引する新たな目標や夢を掲げられず、結果、過去から離れることができなかったと考えられるのです。
「未来の繁栄」を見つめること
孫正義氏の著作『孫正義 リーダーとしての意思決定の極意』には、家業の造船業が斜陽化したときに、必死で立て直した企業家について厳しい言及をした箇所があります。
「なぜ沈みゆく産業に自分の人生を懸けるんだ。もうその時点で経営者として、事業家として失格だ(中略)。もし僕がその立場にいたら、造船業で培った製造する力、マネージする力、営業力、そういう基礎力を使って造船以外をやる。あるいは日本でやらずに、そのノウハウを持っていって中国やロシア、インドの賃金でやる」
「親から受け継いだ仕事をやらざるをえなかった。それは理解できるけれど、僕が同じように受け継いだらいち早く業態転換する。先祖代々の家業を意地でも守っていく、なんてことは絶対にしない。少なくとも僕の後継者になる人は、それでは失格です」
離れることには痛みが伴います。心理的な抵抗感も強烈にあるでしょう。それでも離れなければ「1兆円2兆円の企業」を実現できない。大胆な目標を掲げ、その目標から俯瞰をすることで、現状にとどまり成長が停止した状態に甘んじる無意味さを実感できるのです。
逆に目標が現状維持の場合、孫氏のように業態転換をする必要はありません。その意味で「未来の繁栄」を思い描き、どのような未来を見つめるかが重要になります。時間軸を変えることで、現状から私たちの発想を引き剥がすのです。創業者の孫正義氏が掲げ、更新し続けている大胆な目標こそが、ソフトバンクという企業に「離れる戦略を実行し続ける力」を与えて、今後、伸びていく事業領域への進出を可能にしているのです。
人工知能の発達は、やがて対話型ロボットが人のコミュニケーション介在者として大きな役割を得る可能性を秘めています。そのとき、私たちはほとんどの消費行動をロボットとの対話を通じて行うかもしれません。ここにも「未来の繁栄」を自ら設定して現状から離れ、新たな一歩を踏み出す“離れる力”が発揮されているのです。
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