商品もチームも「一言」で言い表せればうまくいく 名物クリエイティブディレクターの最強仕事術

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実はこのコンセプトワード誕生には裏話があります。プロジェクトを進めているときに、ジョギングをしながらたまたま、YouTubeで有名な講演家の鴨頭嘉人さんの話を聞いたのですが、その中で彼がタクシードライバーの話をしていたのです。

曰(いわ)く、「タクシードライバーはスーパーヒーローだ」と。なぜなら、タクシーを使うときは、みんな困っているときだから。

「世の中の困っている人を助ける職業なのだ」と。そして、困っている人がいるときだけ登場して、困っている人を助けたら去っていく。

この話は大いに参考になりました。確かにタクシーに乗るのは何かしら「困っている」ときです。つまり「困っている」ときがタクシー配車アプリの活躍の場面なんだと気づきました。そして思いついたコンセプトワードが、「困ったらGO!」なのです。これで、プロジェクトの北極星が決まりました。

早速このコンセプトワード「困ったらGO!」をクライアントとも共有し、CMプランナーの岡部将彦さん(Que)に「これをベースにアイデアを膨らましてほしい」とお願いしました。そこから企画作業が進んで生まれたのが、竹野内豊さんがサラリーマンの上司役に扮して、タクシーの争奪戦を繰り広げたり、大雨の日にタクシーに乗れず苦労するCMです。CMのメインのコピーは「どうする? GOする!」です。

(出所:『非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術』)

コンセプトワードは表には出ない

タクシーアプリ「GO」以外のコンセプトワードの例も紹介しておきましょう。

角ハイボール「新オヤジたちに、角ハイボール。」
永谷園「信じられるものを。」

こうしたコンセプトワードは、製品名やキャッチコピーと違い、表には出てこない存在です。世の中の人が目にすることはないのですが、プロジェクトの進むべき座標、北極星とも言うべきコンセプトワードをつくっておくことは、ビジネスの課題解決を進めるうえでは不可欠です。クライアントとの間や、クリエイティブチームで、共通認識を持つことができるようになるからです。プロジェクトメンバーの認識を一致させることで、その後の展開にブレが出ず、全員が同じ方向に向かうことができます。

先に述べたように、チームを組成する前に考えることや、タグラインよりも先に考えることもありますが、具体的な「表現のクリエイティブ」を考える前には、コンセプトワードをつくっておくようにしましょう。

齋藤 太郎 コミュニケーション・デザイナー/クリエイティブディレクター

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さいとう たろう / Taro Saito

慶應義塾大学SFC卒。電通入社後、10年の勤務を経て、2005年に「文化と価値の創造」を生業とする会社dofを設立。企業スローガンは「なんとかする会社。」。ナショナルクライアントからスタートアップ企業まで、経営戦略、事業戦略、製品・サービス開発、マーケティング戦略立案、メディアプランニング、クリエイティブの最終アウトプットに至るまで、川上から川下まで「課題解決」を主眼とした提案を得意とする。サントリー「角ハイボール」のブランディングには立ち上げから携わり現在15年目を迎える。

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