「日本株はウクライナ長期化でも大底圏」と読む訳 「スタグフレーション懸念」はどの程度深刻か

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そこでアメリカの債券市場において、10年国債から2年国債の利回りを引いたものを見ると、2000年、2007年、2019年に、その差がマイナスに陥っており、それぞれ1年後の景気後退を示唆していた。ところが現時点では、差が縮小はしているものの、まだプラスだ。

つまり同国の債券市場は、少なくとも向こう1年間は、景気は減速(成長率がプラスの範囲で低下)しても、後退(成長率がマイナス)とはならない、と示しているのだろう。

前回の当コラムで指摘した日米の中小型株の底固さ(ただし東証マザーズを除く)も、投資家が中小型企業の業績リスクを懸念するより、長期的な利益成長性に賭けよう、との機運を抱き始めていることを示唆している。これは、株式市場の好転を先取りしている可能性がある。

懸念要因としていた15~16日のFOMCについては、ジェローム・パウエル連銀議長が2~3日の議会証言で、利上げの見送りも0.5%の大幅利上げの可能性も否定し、0.25%の着実な利上げを強く示唆して、市場に金融政策の変化を織り込ませ、市場心理を安定させることに成功した。

もちろん「3月のFOMCが波乱とならなくとも、その先はどうなのか」と、不安視する向きはあるだろう。それでも、これまでのエネルギー価格高騰が経済に与える悪影響も含め、連銀は諸データを注視し、判断しながら柔軟な対応をとるだろう。

また、もう1つの懸念要因として挙げていた米中関係に関しては、経済・金融面でのせめぎ合いは続くだろう。だが、台湾や南沙諸島で中国が冒険的な行動をとり、それが市場の悪材料になりかねない、という点については、ロシアがウクライナ情勢で当初想定以上に軍事的成果を挙げられていない一方で、欧米諸国などからの厳しい制裁で経済が窮地に追い込まれつつあることが、中国にとって「他山の石」となりうる。

つまり、中国がロシアと同様の「末路」を迎えかねないと考えれば、ある程度の自制が働くのではないだろうか。

投資家の目は企業収益の実態へ

市場心理が落ち着けば、投資家の目は企業収益の実態に向かうだろう。先行き12カ月間の1株当たり利益の前年比増減益率の、アナリスト予想の平均値(ファクトセット社調べ)を見ると、アメリカのS&P500種平均ベースでは、最近のピークである2021年7月時点の43.2%増益見通しからは鈍化はしているが、直近(11日時点)でも28.3%増益が見込まれている。

一方、日本のTOPIX(東証株価指数)で同様に見ると、2021年9月の最高値である50.1%から低下はしているものの、直近でも35.2%増益の予想だ。

こうしたアナリスト予想集計値は、最新データがリアルタイムで更新されている。つまり、これまでのエネルギー価格の上昇などについて、それを踏まえて企業収益予想を見直すまでに時間差はあるものの、すでにかなり反映されたうえでの見通し値だ。

すでにそれなりの株価下落が生じたあとの現時点で、先行きをいたずらに悲観視することは、おそらく適切ではないと考えている。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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