「戦下の正常化」でECBが直面する困難とユーロ高 ラガルド総裁は資源価格よりも賃金上昇を警戒

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現状、域内の妥結賃金は過去最低の失業率とは裏腹にだいぶ低い伸び率にとどまっている。この点、ラガルド総裁は今後、賃金上昇圧力がいつ、どのように発生しそうなのかに関し、可能なかぎりの知性と理解の集約を進めるよう努めていると述べた。おそらく、妥結賃金の抑制はパンデミックで雇用保全が賃上げよりも選好された結果と考えられ、アメリカ同様、人手不足に直面するユーロ圏でも早晩、賃金の上昇は不可避と予想される。

ユーロは1.15ドル、140円が視野に

雇用の「量」的な改善を示す失業率が著しく低下している一方、雇用の「質」的な改善である賃金が上がらないという状況は不自然であり、この「ねじれ」は賃金上昇により解消されるはずである。賃金上昇はサービス物価を中心に消費者物価指数(HICP)と基調的なインフレ率を押し上げる。これまでECBがFRB(連邦準備制度理事会)よりも正常化プロセスに慎重でいることができた背景には賃金上昇が抑制されているからという理屈があった。

これが本格的に覆されてくるとなれば、域内の金利上昇ひいてはユーロ相場の押し上げにもつながってくるだろう。何より、輸入物価の抑制が期待できるユーロ高のほうが望ましいという事情もある。もともと、世界最大の経常・貿易黒字という盤石の需給があることを踏まえれば、ウクライナ危機を脇においても年内のユーロ相場が復調してくる可能性はあり、対ドルで1.15、対円で140円といった水準は視野に入ると予想したい。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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