「戦下の正常化」でECBが直面する困難とユーロ高 ラガルド総裁は資源価格よりも賃金上昇を警戒

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ECBのインフレ懸念の強さは今回改定されたスタッフ見通しに現れている。今回はメインシナリオに加えて「悪化シナリオ(adverse scenario)」、「最悪シナリオ(severe scenario)」を併記するという試みが取られている。

注目すべきはユーロ圏消費者物価指数(HICP)の上昇率見通し。メインシナリオでも2022~2024年のパスが「+5.1%→+2.1%→+1.9%」とされ、前回(12月)対比で2022年が+1.9%ポイントも引き上げられ、2023年も+0.3%ポイント、2024年も+0.1%ポイント、それぞれ引き上げられている。

これだけでも正常化プロセスを決断するのに十分な材料だが、対ロシア経済制裁やそれに付随する供給制約を背景として悪化シナリオ、最悪シナリオが示され、いずれもインフレ上振れ方向での「悪化」が見込まれている。

片や、実質GDP成長率は最悪シナリオの2024年まで見越してようやく2%を割り込む程度である。ユーロ圏の潜在成長率が2%前後であることを思えば、まずはインフレ高進を潰すほうが割に合うというのがECBの胸中だろう。総じて「将来の景気後退より目先の物価上昇」という問題意識が透けて見える。

では、いつ利上げするのか

今回、APP終了方針と共に注目されたのは利上げに関する記述だ。これまでECBの正常化プロセスの手順を規定してきた文言である「The Governing Council expects net purchases to end shortly before it starts raising the key ECB interest rates」(理事会は、主要な政策金利の引き上げを開始する直前に純購入が終了すると予想する)は今回は削除された。

その代わりに「Any adjustments to the key ECB interest rates will take place some time after the end of the Governing Council’s net purchases under the APP and will be gradual」(主要な政策金利の調整は、APPに基づく理事会の純購入の終了後、いくぶんか経過してから、段階的に行われる)との記述が加わっている。

「APP終了後に利上げ」という大枠は変わっていないが、APP終了と利上げの間に横たわるリードタイムに関して「shortly before」が「some time」と表現を変えたことが目に付く。

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