物言う株主すら退散する「M&A最強タッグ」の正体 東京機械も「秘策」で勝利した専門家集団たち
「助けてやってほしい」
2021年夏、西村あさひ法律事務所の弁護士、太田洋の元に1本の連絡が入った。連絡の主は、輪転機メーカー最大手・東京機械製作所の取引先。東京機械は国内の新聞各社にとって欠かすことができない存在だ。
東京機械は、投資会社のアジア開発キャピタルに株を買い占められていた。発覚した時点でアジア開発は子会社と共同で8%余りを取得。東京機械側の初動ミスがたたり、8月下旬時点で4割近くまで買い占められるなど、絶体絶命に陥っていた。これを見かねた取引先が、わらにもすがる気持ちで太田に助けを求めたというわけだ。
誰の目にも手遅れの状態だったが、太田は引き受ける決断をする。依頼者のためなら負けを恐れずにリスクを取るべき──。それが太田の信念だったからだ。
ほかの弁護士であれば、自己株買いでアジア開発の保有株を買い取ったり、高配当を見返りに撤退してもらったりといった妥協の道を探っていたかもしれない。しかし太田は東京機械にとって何が最良の道なのかを考え、ともに戦うことを決意。すぐさまIR会社のアイ・アールジャパン(IRJ)と、PR会社のパスファインドに招集をかけた。
危うい道でも顧客のために渡る
太田が頭を悩ませたのは、いかにして買収防衛策を導入するかだった。4割以上の株を握られている以上、単に臨時株主総会を開いて防衛策を導入しようとしても、否決されてしまうおそれが大きい。
そこで太田が考えついたのは「マジョリティ・オブ・マイノリティ(MoM)」を防衛策の発動要件に応用することだ。アジア開発を除いた少数株主の最大多数の意思を株主総会で確認し、防衛策を導入するという作戦だ。
『週刊東洋経済』3月7日発売号は「ザ・M&Aマフィア 企業買収プロたちの闘い」を特集。急増する劇場型TOBの裏で活躍するプロ集団たちの暗闘とその素顔に迫った。
アメリカのM&Aでは頻繁に使われるが、本来MoMはMBOや完全子会社化で少数株主の保護のために使われてきた。発動要件に応用した例は過去にない。株主平等の原則に照らしても、認められるかどうか微妙な、危うい道といえた。
唯一の望みは、裁判所の「防衛策導入は総会に諮るべき」というスタンスだ。株主に選ばれる立場の取締役会が、株主に確認せずに防衛策を導入するのはおかしい。そんな考えが裁判所には根強い。
会社法上、防衛策は取締役会決議だけで導入できる。だが、取締役会決議のみで防衛策を導入したニッポン放送は裁判で負けている。そのためMoMを使ってでも、少数株主の過半数の賛成を得ることが最優先課題となった。そこで太田は、IRJに正確な票読みを依頼する。票読みには議決権行使を左右する本当の株主が誰なのかについて調べる「実質株主判明調査」が必須だったからだ。