バイデン政権はウクライナを見捨てざるをえない 中間選挙を控え多くのジレンマに悩まされる

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パンデミックの影響ですでにインフレ率は40年ぶりの高さを示している。ウクライナ危機をめぐる世界のエネルギー価格の高騰で、アメリカ国民は痛みを感じ始めている。中間選挙に向けて共和党からは、バイデン政権のインフレ対策に批判が集まるであろう。バイデン政権は経済制裁でプーチン政権に圧力をかけたい一方、アメリカ国民の生活にも配慮が必要であり、妥協策はどちらも中途半端にしかねない。

一般教書演説で、ウクライナ対策についての場面では、バイデン大統領が民主党議員だけでなく、共和党議員からも拍手喝采を受け、国を団結することに成功したかに見える。だが、それは長続きしないであろう。

前述のようにアメリカ本土にウクライナ危機は脅威となっていないこと、そしてアメリカの関与が限定的であることからも、戦時中に大統領の下で国民が団結する「旗下集結効果(Rally ‘round the flag effect)」は期待できない。9.11アメリカ同時多発テロ事件後に同効果は見られ、当時、ジョージ・W・ブッシュ大統領の支持率は急上昇した。だが、ウクライナ危機は国難ではない。さらに、共和党内でいまだに影響力が絶大のトランプ前大統領は引き続きバイデン大統領のウクライナ対策を批判し、共和党の政治家が多数追随していることも、国民の団結を妨げる。

バイデン大統領のウクライナ対策については現在、43%の国民が支持し(IPSOS/ロイター世論調査、2月28日~3月1日)、支持率は前週から9ポイントも上昇しているが、まだ半数にも満たない。また、ウクライナ対策で評価が高まっていても、低迷する大統領支持率も43%で、これには変化が見られない。

コロナ、インフレで国民も疲れている

国民が最も注目しているのは経済政策そしてコロナ対策など身近な問題なのだ。ウクライナ問題はバイデン政権の評価を下げるリスクがある一方、評価を高める効果はない可能性がある。共和党は今後、中間選挙に向けて、バイデン大統領は政権発足からわずか1年強でアフガニスタンに加えウクライナという民主主義国家を失ったのだという批判を、テレビCMなどで展開するであろうとある共和党アドバイザーは予告している。

国民が最重視するインフレ問題に加え、徐々に国内の分裂のみならず、EUなどとの連携が崩れていけば、バイデン大統領就任時に期待されていた社会正常化とは程遠くなる。ウクライナ危機はバイデン大統領に、アフガニスタン撤退での失態後の名誉挽回の機会をもたらしたように見える。だが、戦争の長期化も予想される中、中間選挙で民主党が議会多数派を維持できるほどの支持率を大統領が回復するのは、難しいかもしれない。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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