感染で中止相次ぐ演劇「チケット返金条件」の実際 白鸚「ラ・マンチャの男」観劇が「見果てぬ夢」に?

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ただし、チケットに規約があるからといって必ずしも興行主の責任がそのとおりに免責されるわけではない。かつて往年の大物歌手が大ホールで公演を予定していて、当日になって観客が少ないことがわかり、出演しないと言い出して開演1時間前に中止決定が発表された例があった。「故意」による中止と言える。興行主側の「故意」や「重大な過失」によって中止となった場合には裁判に訴えれば消費者契約法により、そうした契約条項は無効とされ、観劇に要した費用分は補償される余地がある。

観客が劇場に行けない場合はどうであろうか。通常は自己責任ということになるが、例えば大雪で交通網がマヒしており、行けないというような場合も何も補償はないのであろうか。規約では理由を問わず、返金、購入後の変更は一切できないと書いてあるのが通常だが、営業上の対応が取られるかもしれない。そもそもそうした状況では劇場側もスタッフがそろわず開演できない可能性もあり、その場合は中止となり返金される。

主役の俳優が出演できず代役の場合

開演はされても主役を務める役者が病気や事故などで代役になった場合はどうであろうか。これも通常、規約で興行内容や演者が変更となる場合があることが書いてあるので、免責となると解される。しかし、主役の俳優が出演できず、もし代役となったら納得しない観客は多いだろう。

興味深いケースがある。2017年10月のスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』公演(新橋演舞場)で主演の市川猿之助が上演中に大けがをして舞台に出られなくなり、弱冠25歳の尾上右近が主役を務めたことで話題になった。

実はこの公演、猿之助の若手を育てるという意向から、特別マチネ「麦わらの挑戦」が設定され、そこでは猿之助演じるルフィとハンコックの2役を右近が務めていたのだ。そのため、急遽、通常公演も右近が主役を務めて続けられた。

ただし、通常の公演と特別マチネには観劇料に差をつけており、特別マチネは席の等級により500~2000円安かった。そこで興行主の松竹は代役での上演となった「通常公演」の観客にはその差額を返金した。主役俳優が大けがをしながらも、特別マチネがあったからこそ上演を続けられたという意味でも、観劇料を値引きしたという意味でも稀有な事例だ。

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