円高、不均衡是正に政治は真剣な議論を

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 今回、韓国・慶州で開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を前にして、米国は再度、「Negative Gain」をあらわにしたようにさえ見える。バーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長、ガイトナー財務長官が公式の場で放った言葉には、過去の変わり身に似たニュアンスが包含されていたように感じられる。言うまでもなく、これらは米国経済が深刻な事態に陥っていることを明確に示した。

米国は特定国を名指しせずに「自国通貨切り上げに抗する動き」(ガイトナー財務長官)を強く牽制。G20会合では、不均衡是正のために経常収支の均衡化に向けた数値目標の導入を提案した。戦略的な提案だったが、中国の反対で導入は見送られたと言う。G20は「通貨の競争的な切り下げ」の回避を共同声明に盛り込んだものの、具体策は伴わなかった。精神訓話的な合意が効力を発揮するとは考えにくい。

しかも、米国には今後もドル安の要素が少なくない。実体経済の悪化を示す経済指標が発表されると米国市場の株価が上昇するパターンは、「悪材料→金融緩和→流動性供給→株高」という根強い発想が市場を支配していることを如実に物語っている。米国当局は第3四半期のGDPが良好なものになる見込みだと示唆するが、たとえば、米国で信頼を得ている「Consumer Metrics Institute」社によるGDP予想はその真逆の悪化方向にある。

ましてや、金融分野は深刻だ。月々の利払いを条件変更期限まで繰り延べできる住宅ローン(OARM)はこれから変更期限の山場を迎え、相当に高い確率で返済不能が続出しかねない。加えて、住宅ローン分野では銀行、ローン会社の差し押さえ手続きの不備が社会問題化し、場合によってはその証券化商品が巨額規模で買い戻しとなる可能性も出てきている。これらは金融システムに影響を与えかねない。FRBが巨額の量的緩和に出る見通しである背景の一つと言ってもいい。これらはすべてドル安、すなわち、円高の要因となる。

11月の米中間選挙も民主党の敗北、共和党の地滑り的な勝利となれば、ドル安・円高に作用する確率が高いと言う。

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