−農民らの生産意欲を高めるために「分組管理制」の下に「圃田担当制」が実施されていると聞いている。3〜5人を1組として、分組が担う農場をさらに細分化させて農作業を行うものと聞いているが、実際に実施され、成果は上がっているのか。
「圃田担当制」は実施されている。これは、各地の状況に合わせて、分組管理制の枠内で効果を出すために導入されたものだ。ただ、米国や中国などでいうところの「個人農業」とはまったく違う。
分組管理制と圃田担当制は、イコールではない。分組管理制の中での圃田であり、分組管理制において農場員各人の優位性を発揮できるための制度だ。分組管理制の中で農場員が担当している土地を、「自分の土地のように」考えて農作業を行える制度でもある。この制度に従って、個人の創意工夫や責任を高めながら仕事をし、生産物量を評価して分配するものだ。
――圃田担当制では、具体的に農場員の作業をどのように評価し、分配などに差が付けられるのかが不透明だ。
分組管理制と圃田担当制をつなぐのは、北朝鮮でいう「労力比」というものだ。これは、中国のような請負制ではない。圃田での労力比を計算して分配がなされ、このときの評価は分組で行う。実際には、現物による分配に加えて現金での分配を組み合わせ、毎年末に計算される。農場には野菜や家畜などを販売することで現金収入も入るので、現金でも分配が可能だ。
【解 説】データの定義が依然あいまいな、北朝鮮の経済統計
この数年、北朝鮮の食糧生産は増加傾向にあるとされている。これは世界食糧農業機関(FAO)など国際機関の調査などでも指摘されている。
北朝鮮国民にとって必要な穀物生産量はおおよそ600万トンとされている。これは食糧加工など工業分野にも回される量を含めた数であり、実際に国民が口にする穀物生産量は550万トンあれば十分という指摘もある。今回、金光男室長の言うとおりに566万トンであれば、穀物自給には足りないものの、援助や輸入によって十分にまかなえる生産量を確保したことになる。
実際に平壌近郊の農場などを見ると、コメやトウモロコシはそれなりに実っている様子だった。ほかにも白菜などの野菜がしっかりと根付いている様子もうかがえた。
だが、北朝鮮関連の統計は非常に不透明な部分が多いことも事実だ。「年間生産量」と言っても、それが1〜12月分なのか、あるいはほかの範囲なのかがわからない。また、北朝鮮で言う生産量は「脱穀前」の量ではあるが、脱穀後の量は「1ヘクタール4〜5トン当たりが現実的な目標ではないか」(環日本海経済研究所調査研究部の三村光弘部長)。日本でのコメの生産量でも、生産性の高い場所で1ヘクタール約6トンという統計もある。
記者が訪れた北朝鮮南部・黄海北道の沙里院(サリウォン)市にある米谷(ミゴク)協同農場での目標生産量は「1ヘクタール当たり11トン」と担当者は述べた。この農場は国内でも有数のモデル農場でもあり、全国的には10トンが目標だが、ここでは11トンが目標ということだった。ちなみに、同農場は水田や野菜などの耕作地面積は860ヘクタール、果樹園が52ヘクタール、農場員は2000人で、規模としては北朝鮮でも大規模農場になるとのことだった。
北朝鮮経済に詳しい帝京大学の李燦雨(リ・チャヌ)教授は、「圃田担当制を全国で実施しているのは間違いない」と指摘する。ただ、分組や圃田の規模は「協同農場の判断で、柔軟性を持って規模を決めているようだ」と説明する。
平野地帯にある農場と、北朝鮮北部のような山間地帯にある農場とは、分組の構成も変わってくるということだ。そのため、「平野よりは山間地帯で圃田担当制の効果が出ているようだ」と李教授は紹介する。平野の農場ではある程度規模のある分組でないと作業効率が悪くなるためだ。
米谷協同農場で「圃田担当制」について聞いてみると、同農場の担当者は「社会主義を守りながら、個人が創発性を発揮して収穫を上げることで国家に貢献し、また個人収入を増やす最良の方法だと思う」と答えた。個人収入の増加に関心があることがうかがえる回答だった。同農場では家畜を飼育している「基地」があり、生産物は農場員に配っているという。「余った分が出たらどう処分するのか」と担当者に聞いてみると、「われわれが取っておいてどうするのか」と反問された。これから、余剰分は市場などに回し、農場が現金収入を得るようになっていることがうかがえた。
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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda
1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。
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