激化する水処理膜バトル、日本企業はどう生き残るか--日東電工、東レのキーパーソンに聞く

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■東レ
 常務取締役 水処理・環境事業本部長 阿部晃一氏

--東レの水処理膜事業が持つ強みは

 グループで蓄積してきた素材の技術力だ。当社の研究開発部門の特徴として、繊維も電子も環境も、すべての分野がひとまとまりになっていることがある。だから、別の所での基礎化学素材研究の成果を水処理膜開発に応用するといったシナジー創出が、比較的容易に行われる仕組みになっている。昨年、アルジェリアのマグタにある世界最大級の海水淡水化プラントの水処理膜を全量受注したが、これも東レの高い技術力がアルジェリア政府に認められた結果だと認識している。

--ただ一方で新規参入も相次いでいる。激化する競争にどう抗していくか

競争は激しくなっているが、当社には技術力に加えて製品ラインナップの広さがある。逆浸透膜のほかにもいくつかの種類の膜があるが、すべてを自社で開発・生産・販売しているのは東レぐらいだ。現在、水処理膜単品での販売から種々の水源と用途に合わせて複数の水処理膜を組み合わせて提案するIMS(統合的膜処理システム)のニーズが高まっている。そうなると総合力という当社の強みはさらに際立ち、新興企業との差別化も十分にできる。

--中国で現地企業と合弁工場を稼働させる。水処理膜のコアである製膜の工程からやるということで技術流出の懸念はないのか

社内でも議論を呼んだのは確かだ。機密保持の契約は交わしているが、それでも大事な情報が絶対漏れないという確証はない。しかし、そうしたマイナス要因を考慮してもプラス要因の方が大きいと判断し、中国工場を決断した。中国は間違いなく最大市場になると見ており、顧客に近い所に拠点を造るのはメーカーの基本でもある。加えて合弁相手先の藍星集団が持っている営業ネットワークも当社に有利に働く。

--現在の水処理膜市場はせいぜい1000億円前後と言われている。今後の市場はどれほど大きくなるのか

膜に代替される画期的な水処理システムが表れないかぎり、20~25年ごろには1兆円市場に躍り出ると思っている。何しろインド、中国という2大人口大国の市場はこれから立ち上がってくる。これらの国では海水淡水化プラント以外にも、工場排水などの排水再利用の需要も大きく膨らんでくると予想している。
(西澤 佑介 撮影:ヒラオカスタジオ 今井康一 =東洋経済オンライン)

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