激化する水処理膜バトル、日本企業はどう生き残るか--日東電工、東レのキーパーソンに聞く
中近東、アフリカ、南欧など、水不足に悩まされる国々で建設が加速している海水淡水化プラント。その中核的な役割を握る製品が「膜」だ。なかでも20リットルに含まれる海水をスプーンひとさじ分にまで濾過できるような高機能膜「逆浸透膜」の市場で、日本企業は実に5割もの世界シェアを握る。
ただ一方、米GEや独シーメンスなどの欧米電機大手や中国のベンチャー企業も同市場へ攻勢をかけ、日本企業を脅かす。いかにして優位性を維持させていくか、米ダウ・ケミカルに続く世界大手である日東電工、東レの2社に話を聞いた。
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■日東電工
メンブレン事業部長 菊岡稔氏
--日東電工の水処理膜事業が持つ強みは
世界的な営業・アフターセールスのネットワークだ。水ビジネスというのは一見グローバルに見えるようで、個別案件の実態はかなりローカル。現地水処理施設の関係者などへの密接な営業体制が不可欠だ。その点、当社には1987年に買収した米子会社のハイドロノーティクス社がある。同社は世界的な水コンサルタント会社などとつながりが深く、情報収集や営業力の面で大きな威力を発揮している。
今年、当社は豪メルボルンに日東電工にとって最大案件となる44万トンの海水淡水化プラント向けに水処理膜を全量受注したが、ここでも米国子会社の営業チャネルが寄与した。
--今後の水処理膜市場の見通しは
これまでの水処理膜は2つの需要の波に支えられた。最初は80年代から起こった半導体などエレクトロニクス産業で用いる超純水用途。2つ目は2000年ごろから盛り上がった海水淡水化用途だ。そして今後は産業排水などの排水再利用がさらに脚光を浴びてくるだろう。排水再利用分野は中期的に年率2割程度の市場成長率が見込めると当社は予想している。
--アジア系の新規参入も相次いでいるが、こうした新規参入は脅威では
中国系、韓国系などで新規参入の動きは確かにある。彼らの品質もだいぶ向上しているようだが、ハイエンドな製品分野では当社との技術的な障壁はまだまだ大きい。この事業にとって重要となる営業網の構築もこれからだろう。決して楽観視をしているわけではないが、現状はまだ脅威と感じるほどではない。
--日東電工としての今後の戦略は
まずは製品の水平展開だと思っている。これまでの日東電工は逆浸透膜という最高級タイプに経営資源を集中してきたが、今後はUF膜(限外濾過膜)、MF膜(精密濾過膜)など、比較的付加価値の低いタイプの膜も強化していく。品ぞろえを広げることで、顧客に対して包括的な提案ができる形を整えていく。もっと先の事業展開としては垂直展開(水処理装置の組み立てや設備保守・運営を行うこと)も考えられる。ただしこれは、既存の納入先の領域に踏み込むことになるため、やるにしても注意が必要となるだろう。