"iPhone決済"、激突した「業界のカベ」の正体 問われる「消費者利益」のとらえ方
これらのApple Payを導入していないチェーンは、独自の電子決済サービスを既に導入しているか、準備しているところで、競合となるApple Payに顧客が流れて、自社の取り組みが水泡に帰すことを避けたいのではないか、と見られている。
そのサービス名はCurrentCと呼ばれるもので、NFCやアップルのデバイスに限定せず、モバイル決済サービスを提供できるものだ。小売りチェーンは独自のモバイル決済を用意することで、クレジットカードや電子決済を顧客が利用する際の手数料を節約することができる。
また、別の指摘として、Apple Payは一時的な決済用の番号がやりとりされるだけであるため、決済時に顧客の情報を集めたい小売りチェーンにとって不利になるのではないか、という指摘もある。つまり、Apple Payを遠ざけようとする小売りチェーン側の反応は、ビジネスモデルの根幹にかかわる部分を守ろうとするものといえる。
アップルの反論
これに対し、アップルは、Apple Payを拒否している小売りチェーンに対して、反論の声明をBusiness Insider宛に出している。Apple Payは顧客から好評で、多くの小売店は既に恩恵を受けており、現在22万店舗で利用できるとしている。
米国の大手100社の小売り店舗数はおよそ27万店で、Apple Payの22万店という数字が多い部類に入ることが分かる。前述のCurrentCは11万店舗に留まっており、Apple Payの半数というのが現状だ。小売店としては、モバイル決済のサービスをApple Payだけに閉じる必要はなく、Google Walletやクレジットカード系の非接触サービスとの両立も可能だ。
冒頭に紹介したWSJ.D Liveでティム・クック氏は、これらのチェーンに対して、「小売店は決済方法の選択肢を制限することによって、顧客を遠ざけるリスクがある」(Reuters記事)と指摘している。 アップルからすれば、Apple Payは同社の新しい「サービス」であり、これがより多くの店舗で使われることが「成功」の1つの基準にもなる。同時に、iPhoneの魅力を高める役割も担っている。
とはいえ小売りチェーンは、独自の顧客サービスを、これまでよりも安い手数料で実現するためにも、またApple Pay以前から構築してきたモバイル決済システムの投資回収のためにも、なかなか後には引けない。そんな状況といえる。
筆者はどうするか、を考えてみよう。もしApple Payを使い始めたら、筆者のアパートの最も近所にあるCVSではなく、Apple Payが利用できるWalgreensまで足を伸ばすだろうか。確かに、1度は試しに行くかもしれない。その後も、スマートフォンだけを持って出かけているときなどには、Apple Payを使うために、Walgreensを選ぶだろう。しかし、普段の購買行動を大きく変化させる事はなさそうだ。
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