人口1万「ジリ貧の町」に36歳芸人が移住した理由 ようやく見えてきた「住みます芸人」成功のカギ
寺本の活動は、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも取り上げられ、『ビレッジプライド 「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、また「里山資本主義」で知られる地域エコノミスト、藻谷浩介との共著『東京脱出論』(ともにブックマン社)などの著書もある。
そして前出の奥村を邑南町に招いたのも、この寺本だった。
「吉本さんの『(あなたの街に)住みますプロジェクト』に興味を持たれていた町民の方から、『地域おこし協力隊』に、住みます芸人を招いてはどうかとのご提案をいただいて。僕は住民の方から提案をいただいたら、それを何とかして実現できないかと考えるほうなので。
うちの町では2011年から、地域おこし協力隊の枠組みの中で『耕すシェフ』という制度を設けているんですが、その『耕すシェフ』で奥村さんを受け入れようと」(寺本)
地域おこし協力隊とは、1〜3年の任期で、地域外の、その多くは若者が、自治体の委嘱を受け、その地域に移住し、活動を行う総務省の制度だ。自治体の負担は原則ゼロで、1人あたり400万円を上限に、国から自治体に特別交付金が支給され、それが隊員の活動資金や給与になる。
そして寺本の言う「耕すシェフ」とは、この地域おこし協力隊の制度を利用して、隊員となった若者たちに、地産地消を目指した町のレストラン等で研修を積み、地元生産者との関係を作ることで、この町での起業を目指してもらうことを目的とした邑南町独自の制度だ。
「ただ奥村さんに話を聞くと、彼はすでに調理師免許を持っていて、料理人として働いていた経験もある。その一方で、芸人、タレントとしてやりたいことや、こだわりも持っている。ならば、レストランで研修してもらうのではなく、情報発信とか、お笑いとか、彼の強みを活かして、やりたいことをやってもらったほうが、邑南町のためにもなるんじゃないかと思って、奥村さんには自由に活動してもらうことにしたんです」(寺本)
吉本ブランドを利用する発想はなかった
さらに、寺本はこう続けた。
「彼を邑南町に招いた当初から、奥村さんというタレントを“使って”、あるいは、吉本さんのブランドを“利用して”まちおこしをしようという発想はありませんでした。うちの町にはすでに〈A級グルメのまちおこし〉という明確なコンセプトがあり、それを実践していたので。
それよりも、奥村さんにこの町が好きだ、この町に住んでよかったと思ってもらえることが大事でした。基本的に『住みます芸人』の人たちは、その町のために動いてくれると思っているので。奥村さんが、この町の人たちと人間関係ができて、『この人たちのために何かしたい』と思ってくれることが、邑南町のためにもなるのかな、と。
そして、奥村さんが『この町のために何かしたい、何とかしたい』と思った時にお手伝いするのが、僕たちの役割だと思っていました」
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