「コロナ向け飲み薬」塩野義の開発薬に2つの焦点 海外メーカーの飲み薬は日本で承認が相次ぐ

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具体的には、頭痛や発熱、喉の痛みなど12の症状をその度合いによってスコアリングし、服薬後の数値の改善度合いを測る。多くの感染者で症状は自然に改善していくが、薬の服用でその改善スピードがどれだけ早まるかを重視している。

塩野義は2月7日、現在行っている治験のごく初期に集まったデータを公表した。対象人数が少ないため統計学的に有効なデータではないが、投与群の症状は偽薬群(効き目のない薬を服用した人)に比べて早く改善する傾向であることを確認している。「次に行っている(より大規模な)治験でこの結果を再確認することができれば、速やかに(厚労省への承認を)申請する」(手代木功社長)という位置づけのものだ。

ファイザーも現在、ワクチン接種者や重症化リスクの低い感染者を対象に、症状の改善効果を評価する治験を追加で実施中。最終的な結果は2022年後半に出る見込みだが、2021年12月には中間解析の結果として、偽薬群と投与群では差がなく有効性を確認できなかったことを公表している。

それだけに、塩野義が行う大規模な治験で明確な症状改善効果を示せれば、大きな特長となるだろう。

隔離期間の短縮も狙う

もちろん、抗ウイルス飲み薬の直接的な効果であるウイルスをどれだけ減らせたかについても評価している。その目的はファイザー、メルクと塩野義とでは異なる。

ファイザーとメルクの場合、死骸も含めたウイルス量をどれだけ減らせたかを測定している。感染力があるかどうかにかかわらず体内のウイルス量を感染初期にとにかく減らせれば、重症化するのを防げるだろうという観点からだ。

一方、塩野義が測定するのは、感染力がある「生きたウイルス」の変化量だ。この指標が一定量を下回る「陰性」となれば、もう他人へは感染させないことを意味する。薬の服用で陰性になるまでの日数を早めることができれば、その分だけ感染者の隔離期間も短くできる。

海外勢と塩野義の違いはもう1つある。治験の内容とは関係ないが、ファイザー、メルクが治験を行っていたのはデルタ株の流行時期。塩野義の治験は初期にはデルタ株、より大規模な治験はオミクロン株の流行時期に行われている点だ。

オミクロン株はデルタ株よりも比較的症状は軽く、重症化もしにくくなっている。治験においては偽薬群でも症状は軽く、より早く改善することになるため、統計学的にはっきりとした効果を示すハードルはより高くなっているともいえるが、塩野義は「今の日本でこの薬を使えばこういう効果になりますよ、という現実に近い評価ができる」と説明する。

塩野義の飲み薬の注目点は、症状の改善度合いとオミクロン株に対する効果をどれだけ示せるかにある。治験結果が出るのはもうすぐ。新たな飲み薬の選択肢が広がれば、「アフターコロナ」にも一歩近づくことになるだろう。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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