いちアーティストとして自分のNFTアートを販売する。またはいち消費者として、好きなNFTアートをコレクションしたり、アーティストを応援したいという気持ちを示すためにNFTを購入するのであれば、興味深い仕組みといえる。
しかし肝心の元データであるデジタルイラストはデジタル上でコピーし放題だ。さらには、悪意あるユーザーがコピーしたNFTアートをNFT販売サイトに登録し、自分の著作物として販売することが可能。「OpenSea fake」と、世界最大のNFTマーケットプレイスの名前とfake=偽物というワードでウェブ検索すると、あきれるほど多くの被害が起きていることがわかる。投機、収益目的で参加するにはあまりにも市場そのものの信頼性が低い。
では、ほかの方法で収益を得る方法はないだろうか。
多方面で取材し、話を聞いていくうちに、実はメタバース内で求められるコンテンツの製作において、メタバースにいるユーザーやメタバースに関わる企業に高く評価され、収益を得ているクリエイターが存在していることを知った。
おいしそうな3D CGの小物が人気となった
メタバースサービスの1つ、VR SNSの「VRChat」内で取材させていただいたイカめしさんもその1人だ。BOOTHという有料デジタルデータや有料プログラムが登録されているサイトで販売されているイカめしさんの作品は、パフェやケーキといったスイーツ、餃子・焼売・小籠包や割ることができるスイカなど、おいしそうな3D CGモデルが多い。
思い描く理想のビジュアルを作り上げたいときの時短につながる半調理素材。料理の世界でいうなら、スープの素やカット野菜といったところだろうか。これらの3D CGモデルは、個人または企業がメタバース内で自分の部屋や家、ショールームや催事場を作る際に扱われることが多い。
イカめしさんにお話を聞くと、もともとモノづくりの世界に入りたかったが、粘土などを扱っても納得できるものが作れない。しかし3D CGの世界であれば、自分の思いどおりに好きなものを作れることを知り、一念発起。フリーランスとして独立した。
「最初のころは貯金を切り崩しながら生活していました」というイカめしさんに転機が訪れたのは、VRChat内の空間を作っているワールドクリエイターがイカめしさんの3D CGモデルを使うようになってから。それまでも自分の作品を展示するショールームとしてのワールドを持っていたが、「ほかのクリエイターのワールドに自分のデータが使われるようになってから、売り上げが一気に増えたんです」(イカめしさん)。現在はBOOTHでの売り上げや、オーダーメイドでのデータ製作依頼で月40万~80万円ほどの収益となっている。
こだわっているのは、艶やかさ。リアルな造形は追求しすぎず、VRヘッドセットの視界越しに見ておいしそうだと感じるようなデフォルメをほどこしながら、瑞々しさが伝わってくるように作り上げている。
かき氷に屋台、シロップボトルなど97点のデータがセットになった「誰でも屋台ごっこ」は1800円といったように、1つひとつの商品はリーズナブルだ。NFTアート同様にコピー・転売される危険性もあるが、新作を発売すると即座に購入する人がいるなど、イカめしさんの作品だから購入したいという購入者が多いようだ。
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