FRBはゼロ成長下で利上げに着手することになる 経済のオーバーキル懸念が強まり後半は修正か

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ちなみに、上述したNY連銀ブログの最後には「供給要因はいずれ財の物価よりもサービスの物価に反映されてくる」とあり、そうした影響がラグを伴って顕現化する可能性こそが「われわれの分析における重要な警告(An important caveat of our analysis)」だと記されている。サービス物価とは要するに賃金であり、パウエルFRB議長も会見で繰り返し賃金上昇の危うさを指摘したことが思い返される。

しかし、雇用・賃金情勢は景気の代表的な遅行系列であり、金融政策の効果が半年~1年程度のラグを伴って表れるという標準的な考え方を取るならば、その過熱を見計らって引き締めるとやはりオーバーキルに至りやすいと考えられる。

秋には政策が逆方向へ旋回するのではないか

そのような懸念もあり、筆者は4回以上の利上げを現時点で当然視する姿勢には賛同できない。最大でも3月・6月・9月の利上げを経て、株価を筆頭とする経済・金融情勢をなだめすかす方向に旋回する公算は大きいと考えている。中間選挙直前ともなれば、インフレ情勢もさることながら、実体経済に寄り添う姿勢が世論の好意的な評価を受けやすくなっている可能性もあるだろう。

なお、現状のタカ派姿勢が長く続かないことについて、市場も理解している節がある。前回の本欄への寄稿『FRBの金融正常化で市場に漂うオーバーキル懸念』でも議論したように、正常化プロセスにとって「最後のテーマ」である中立金利(利上げの終点)の水準イメージをOIS(Overnight Index Swap、固定金利と変動金利翌日物レートを交換するスワップ取引)で見れば1.75%、30年金利で見れば2.20%などが示されており、いずれもドットチャート(FOMCメンバーの予想)の示す2.50%よりも低い。

年内の利上げ回数を増やしたところで最終的に行き着く利上げの終点は変わらないというのが市場の見立てである。「最終的に行き着く水準は同じ」と考えられている事実は、短期的に数多くの利上げを押し込む政策運営は持続性がないと思われている証左でもある。

景気の腰折れ(オーバーキル)を回避するという観点からすれば、供給能力の復調を待ちつつ、今後3年間で年2~3回の利上げを実施するといった姿勢が、物価と成長率の安定を両立させるうえでは無難な選択肢となってくるように思える。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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