日本の「反ワクチン運動」がどうも異質に見える訳 同じ世界観にのめり込む享楽こそが至上の価値

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陰謀論支持者の世界観では、世界は白と黒で塗り分けられている――巨大な陰謀と戦っている勇敢な陰謀論者が描く、漫画のような肖像画だ。だが、現実はグレーの影だ。陰謀論は、架空の陰謀家という生贄をつくることで、現実的で修正可能な問題から人々の注意をそらす。存在しない陰謀と戦っている。だから、あなたは陰謀論に勝てないのだ。(『賢い人ほど騙される 心と脳に仕掛けられた「落とし穴」のすべて』中村千波訳、ダイヤモンド社)

この世界を白と黒に塗り分け、つねに戦いが繰り広げられている世界観は、新宗教の教団にも馴染みがある神智学的な善と悪の秘密結社の闘争に近い。宗教学者の大田俊寛は、その世界観について「人類の進化全体は、『大師』『大霊』『天使』等と呼ばれる高位の霊格によって管理・統括されており、こうした高級霊たちは、秘された場所で秘密結社を形成している。

架空の敵でも壮大な物語の一部になって

他方、その働きを妨害しようと目論む悪しき低級霊たちが存在し、彼らもまた秘密の団体を結成している」と捉えるとし、前者は霊的進化、後者は物質的進化を重視するとした(『現代オカルトの根源 霊性進化論の光と闇』ちくま新書)。

地域共同体が衰退し、社会経済的な格差が広がり、仕事と生活がより不安定でより不確実なものに変わり、すべてがコントロール不可能な悪夢に思えてくる……コロナ禍はその傾向を推し進めた。そんな時、気高い精神性をまとった白と黒に塗り分けられた世界観への没入は、世界の不条理に対する自律性を取り戻せるかのごとき幻想を抱かせる。

わかりやすく言えば、実際には存在しないコロナをでっち上げた勢力が、自分たちの実存を脅かす危険の化身となる。そのため、(ワクチンも含む)コロナにまつわるすべての企みに抵抗することで、自らの運命を良いほうに変化させることができると考えるのだ。例え架空の敵であっても連帯と大義という現代社会から漂白された熱狂に火をつけ、人々の命を守るという重大なミッションを引き受ける気概を醸成し、壮大な物語の一部になることで人生が生き生きとしてくるのである。

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