日本の「反ワクチン運動」がどうも異質に見える訳 同じ世界観にのめり込む享楽こそが至上の価値

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欧州の抗議デモは接種義務化への強い反発が根幹にある。ディスインフォメーション(故意に流された偽情報)に基づく陰謀論の影響も小さくはないが、公衆衛生の観点から自由と人権が抑圧されることへの怒りが主な原動力になっている。

片や、日本においてはどうも趣が異なっている。「感染拡大はデマ」「ワクチンは毒物」などのプラカードが目を引くだけでなく、ドナルド・トランプ元米大統領らを善なる人々と崇拝し、光と闇といった対立軸を強調する組織が主導するなど陰謀論的な世界観が強く打ち出されている。

社会不安と孤独感の増大を一気に解消できる

結論を先取りすると、被害妄想が渦巻く陰謀論に刺激された反ワクチンなどの抗議デモは、コロナ禍で進んだ社会不安と孤独感の増大を一挙に解消できるものとして強力なポテンシャルを持っており、社会心理学者のダニエル・ジョリーが言うように、不全感や社会的な排除に対する「完璧な解毒剤」として機能する(Why the Pandemic is Turning So Many People into Conspiracy Theorists/2020年5月12日/DISCOVER)。

人々が強い目的意識に促されて運動化・組織化することで連帯と大義を失った現代社会において架空の敵と戦う勇者や戦士を作り出し、人々の命を守る崇高なミッションを担う壮大な物語の一部になれるという希望を与える。もはや数多の学者が口を酸っぱくして語る事実の検証などはどうでもよく、共通の世界観にのめり込むことで得られる享楽こそが至上の価値となるのだ。

わたしたちがまず基本的な前提として押さえなければならないのは、反ワクチンが少数の発信者とビッグテックを儲けさせる成長産業になっていることだ。

昨年NGO「デジタルヘイト対抗センター(CCDH)」が発表したレポートによると、反ワクチン業界は、12人の主要な反ワクチンインフルエンサーが情報を拡散することで、少なくとも年間3600万ドル(約41億円)の収益を上げており、数百人規模の雇用が生まれている。SNS等で全体では6200万人のフォロワーを擁しており、最大11億ドル(約1250億円)の経済価値があるという(The Disinformation Dozen/CCDH)。これはワクチンをめぐって玉石混淆に入り乱れる情報戦の暗黒面といえ、個々の不安に巧妙に付け込んだ国際的な偽情報ビジネスなのだ。

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