コロナ禍では、日常的に孤独を感じる人々が増え、人としての尊厳が確保しづらくなった事情も大いに関係している。
経済学者のノリーナ・ハーツは、孤独の定義を単に他者とのコミュニケーションの質だけではなく、内面的な状態や、社会的・政治的に疎外されている感覚も含まれるとし、世界各地でポピュリズム政党が躍進する一因になっていると述べた(『THE LONELY CENTURY なぜ私たちは「孤独」なのか』藤原朝子訳、ダイヤモンド社)。なぜなら「自分が疎外され、無視されていると感じているとき、誰かが『あなたの姿が見えるし、声が聞こえる』と言ってくれたら、その約束に魅力を感じるのは無理もない」(同上)からだ。
疎外感の解消、コミュニティーへの切実な要求が充足
これは陰謀論で結び付くネットワークでも同様のメカニズムが作動している。そこでは所属感、居場所、デモや集会などの集団行動による同調性が心理的なストレスを低減させ、安心感をもたらす。とりわけシュプレヒコールや本音で長時間会話ができる機会は、自尊感情を回復させ精神的な高揚を引き起こす。
前出のジョリーが言う「完璧な解毒剤」は、ワクチンによる副反応など健康被害に関する情報の収集を契機に、コロナ自体が虚構でありワクチンが生物兵器であるという言説に真実味を感じ、自分たちの身に差し迫った危機を見いだした者たちの同志的なつながりが構築されることで実現される。疎外感の解消、コミュニティーへの切実な欲求が反ワクチンというイデオロギーを介して充足されたとみることもできるだろう。
ここに特定の政治勢力の草刈場となる余地も生じる。例えば、欧州では極右政党がコロナ関連の規制強化に反対し、政府に不信感を持つ層から支持を集めた例もある。ドイツでは、反ワクチンを掲げる新党「ドイツ草の根民主党(略称: dieBasis)」が誕生した。
もう1つの取り込まれ先として危惧されるのは宗教だ。これは特定の団体にとどまらず世俗ではない次元で自らの精神性のステージを上げる思想傾向を指す。
ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ客員研究員で陰謀論研究者のロブ・ブラザートンは、架空の敵と戦う勇者という自画像ゆえに陰謀論は論破できないと看破した。
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