4万円超の値がついた「土偶ニット帽」誕生秘話 「縄文」界隈注目ヒットメーカーは元バンドマン

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こうして遺跡の関係者ともつながりができた3年目、環状列石(ストーンサークル)がある小牧野遺跡の出土品の展示や保管に加えて、縄文遺跡全般の情報発信などの拠点として縄文の学び舎・小牧野館をリニューアルするという話が立ち上がった。

廃校を利用した縄文の学び舎・小牧野館(筆者撮影)

そのとき、かつて東京でミュージアムの責任者を務めていた竹中に「有識者会議に参加してほしい」という依頼があったので、ミュージアムの運営について話をした。その2年後、リニューアルオープンを前に、青森市が指定管理者制度を導入すると竹中の耳に入った。

指定管理者制度とは、公共の施設の管理・運営に民間のノウハウを活用しようという考えから、行政が民間の事業者を含めた幅広い団体に管理・運営をゆだねる制度である。

このとき、竹中は青森に住み続けるか、東京に戻るか悩んでいた。帰郷して5年のうちに両親がともに亡くなったこともあり、青森に残る理由もなかったのだが、ジェンベチームのメンバーや友人、知人からは引き留められていたのだ。

「縄文の学び舎・小牧野館」の指定管理者の募集要項を見ると、必ずしも考古学や縄文文化の専門家である必要はなかった。それを見て、心が動いた。考古学を学んだこともないし、もともと縄文文化が好きだったわけでもない。しかし、雑貨の買い付けで世界を巡っているうちに各地の遺跡を見て歩くようになり、縄文遺跡でジェンベを演奏するようになってから、縄文文化にも興味を持つようにもなった。なにより、渋谷のミュージアムで働いた経験を生かせるまたとない機会である。

「縄文文化と言われても、かつての自分のように特に興味がない人のほうが多いはず。そのハードルを下げて、もっと身近なものにしたい」

そう考えた竹中は、遺跡整備に関わったことのある仲間に声をかけて「一般社団法人 小牧野遺跡保存活用協議会」を結成。指定管理者に立候補したところ、手を挙げた3者のなかからトップの評価を得て選出された。迎えた2015年5月、「縄文の学び舎・小牧野館」がオープンし、竹中は館長に就任した。

きっかけはカート・コバーン

青森県内の遺跡関連の施設で、指定管理者制度を採用しているのは「縄文の学び舎・小牧野館」のみ。初めてにして唯一の存在だからこその驚きもあったという。そのひとつが、さまざまなグッズを販売するミュージアムショップを設置するのに「目的外使用料」という場所代を求められること。市の所有施設の一部を占有して物販をするという理由から、グッズを置く棚の面積を厳密に計算され、その分の家賃を青森市に収めなくてはならないのだ。

縄文の学び舎・小牧野館は入場無料なので、小牧野遺跡保存活用協議会は青森市から委託費として指定管理料を受け取っているが、ミュージアムショップの家賃は持ち出しになる。視点を変えると、ミュージアムショップのグッズが家賃を上回るほど売れれば、その売り上げは協議会の収入アップにつながる。それに、グッズが売れるということは、「縄文文化を身近なものにする」ことにもつながる。

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