企業の競争優位はカスタマーサービスで決まる ダイソン、アップル、フェデックスの共通点

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今や製品やサービス自体では差別化できない時代、顧客との接点こそが企業の競争力を決める時代に突入している。しかしその一方で、カスタマーサービスの現場に出向くと、デジタル化の名の下に、効率化によるコスト削減が先行していることに気づかされる。

経営からのメッセージである「デジタル時代への対応」は、いつの間にか有人対応を可能な限り排除して、自動化による無人対応を増やす方向にシフトしている。カスタマーサービスを競争優位性の柱として再定義するという議論もなく、顧客視点の経営課題がいつしかしぼんでしまっているのが実態ではないだろうか。

最近では、カスタマーサービスを電話対応からチャットやチャットボットへ転換する企業が珍しくないが、デジタル化を単なる効率化だけに終わらせないために、「顧客起点の企業変革」について再考してみたい。

ジョブズは早くから注目していた

「カスタマーサービスこそが経営の中核にあるべきだ」と説いた経営者がいる。アップルの創業メンバー、スティーブ・ジョブズだ。あまり知られていない事実だが、1997年にアップルに復帰し、CEOに返り咲いたジョブズが描いた成長戦略の三本柱の1つが「カスタマーサービス」である。

ジョブズは、プロダクトデザインとマーケティングではもはや勝てないと悟り、カスタマーサービスを3本目の柱に位置づけ、それが最も重要な要素だと、1999年頃に全従業員にあてたメールで訴えている。カスタマーサービスが最もチャレンジングな(難しい)領域だと忠告しているのは、過去の苦い失敗の経験からくるものだろう。

ジョブズのカスタマーサービス戦略は、その後、電子製品である前にツール性を重視し不要な機能を排除したiPadやiPhoneなどの直観的デザイン、有償サポートのアップルケア・プロテクションプラン、そして世界の各都市に展開されたアップルストアにおいて具現化されていく。

特にアップルストアは、多くの企業が商品を販売する目的で店舗をデザインするのに対して、ユーザーのCXが始まる場所だと位置づけられている。アップルが今日の地位を築けた理由は、ジョブズが復帰後に提唱した顧客戦略とタッチポイントの強化にあるのは間違いない。

ちなみに、アマゾンの創業は1993年であるが、その数年後にはアメリカの大学のマネジメントスクールで、スターバックスなどと並んでアマゾンがCXのケーススタディーとして取り上げられていた。ジョブズもサービス強化については、焦っていたのかもしれない。

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