アメリカの大手金融機関「報酬大幅増」への苛立ち FRBに利上げを求める圧力が高まる可能性

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過去1年余りにわたり、米国の賃金を巡る議論では平等主義的ストーリーが優勢だった。低所得勤労者の賃上げ幅が最も大きく、比較的待遇の良い社員らは後れを取るというものだ。

しかし主要米銀が先週発表した四半期決算がそれを覆しかねず、25、26日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)では、賃金上昇の広がりでインフレがさらに加速する事態の回避を求める圧力が高まるかもしれない。

米銀上位5行は昨年報酬を15%引き上げた。消費者物価上昇率の2倍強の伸びで、今後さらに増えると見込まれる。

JPモルガン・チェースは過去約半年で2回目のジュニアバンカーの昇給を実施し、他行でも同様の動きがある。ゴールドマン・サックス・グループで職位が最も高い約400人は、年間ボーナスとは別に1回限りの特別報酬を受け取る予定だ。

銀行だけではない。比較的高度な技能が必要な職種の報酬がより幅広く速いペースで上向き始めている。

オートマティック・データ・プロセッシング(ADP)のチーフエコノミスト、ネラ・リチャードソン氏は20日のブルームバーグ・サーベイランスとのインタビューで、「2021年のより早い段階に比べ力強いかなりの賃金圧力をわれわれは年末に経験した」と指摘した。

賃金増が見られるのは新型コロナウイルス禍以前に人材不足だった業界であり、「最も打撃を被ったレジャーや接客のような業界ではない」という。「12月時点で前年比2桁増えているのは、ビジネスサービスやファイナンス、IT分野だ」と同氏は説明した。

そのような恵まれた人々が、中央銀行の気前の良さと所得格差拡大の時代に再び頂点に立っている事実は、米連邦準備制度にとって受け入れ難い。こうした現実は、市場の予想通りより迅速で力強い金融政策の引き締めに連邦準備制度を駆り立てるだろう。

債券トレーダーは今年3、4回の利上げと、量的緩和(QE)終了、8兆8700億ドル(約1010兆円)に拡大したバランスシートの縮小開始を織り込む。

だがウォール街の多くのアナリスト、そして株式投資家はほぼ間違いなく、今後実施される可能性のある金融政策の引き締めの規模を全面的に受け入れているわけではない。

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長と他の政策担当者らが長く待てば待つほど、インフレ加速で購買力が最も顕著に損なわれる低所得層がダメージを被る危険が高まる。

ドイツ銀行のジョージ・サラベロス為替リサーチ・グローバル責任者は21日付のリポートで、米国の消費者の実質可処分所得は、コロナ禍以前のトレンドを今や3%下回り、実質賃金も著しいマイナスとなっており、「インフレが縮小効果をもたらしている」と分析。多くの家計は基本品目を購入することすら難しくなり、支出を切り詰め始めているという。

サラベロス氏は「これは実質賃金が急上昇していた1970年代のインフレ環境とは大いに異なる」と指摘する。米労働省によれば、昨年12月の物価調整後の実質賃金は2.3%減少し、4月以降マイナスが続いている。

連邦準備制度は今週のFOMCで、インフレ急加速の下での富の二極化にも対処すべきではないか。最も裕福な人々が特に労働市場で頂点に立ち続け、底辺の人々が最も痛みを感じるような状況で、金融緩和政策を正当化することは難しい。

 

(リサ・アブラモビッチ氏はブルームバーグテレビジョンの「ブルームバーグ・サーベイランス」共同司会者。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Wall Street’s Big Payday Makes Fed’s Job Harder: Lisa Abramowicz(抜粋)

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著者:コラムニスト:Lisa Abramowicz

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