1日1時間も整頓に費やす会社がぐっと伸びた必然 一倉定が説く「環境整備」の驚くべき効能とは

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一倉定先生は、社長専門のコンサルタントでした。生前指導した会社は驚くことに1万社を超えていました。なぜ、これほどまでに多くの会社を指導できたかと言うと、赤字会社を中心に指導していたのですが、生涯、顧問契約を1件も結ばなかったからです。必要な期間、社長を指導し軌道に乗せ、黒字化の見通しがつけば、必要とされる次の会社へ行くのです。

一倉先生はなぜ、赤字会社を中心に指導しようとしていたのでしょうか。それは、経営コンサルタントとして独立する前、勤めていた会社が4社倒産する経験をしたからでした。

世の中が変わったのに社長が経営方針を変えなかったがために、会社が倒産して、自分も含め社員が生活の糧を失い、厳しい現実の中に放り投げられてしまったのです。当時、一倉先生は子どもがまだ小学生で、大変苦労しました。

経営とは社長の決定次第で、会社の運命、社員の運命が決まるということを、嫌というほど体験して、社長専門のコンサルタントになったのです。

お金がない社長は出世払いで指導しました。困っている社長をほっとけない、何とかしたいという行動が、気がつけば1万社以上になっていたのです。その実践に裏づけされた考え方は、「一倉定の社長学」として全10巻にまとめられています。

環境整備は意識革新への道

その第10巻『経営の思いがけないコツ』には次のような記述もあります。

(環境整備は)私の考え方まで変えてしまった。これを徹底すると、人間まで変えてしまう。そこにあるのは、“人間革命”ともいえるものである。
「塵(ちり)を払わん、垢(あか)を除かん」──この言葉は、ひとつとしてものを覚えられない“シュリハンドク”」に、お釈迦様がお与えになった言葉である。
彼は、この言葉をくり返しながら、黙々として掃除をすることによって、誰にも負けない「悟り」を得ることができた。
掃除をしているうちに、心の塵、心の垢を取り去ることができたのである。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より

須梨槃特(しゅりはんどく)は仏典の登場人物で、生まれつきの障害からか非常に物覚えが悪く生活にも困窮するほどでした。しかし、出家したのちにお釈迦様から授けられた「塵を払わん、垢を除かん」という2つの言葉を、他の修行僧たちのわらじの汚れを取り除きながら唱え続けるうちに、悟りを得たのです。

このような記述から一倉先生は、「塵を払い垢を除く」環境整備は、意識革新にいたる早道だと考え、自身の経営学の中心に据えたのだということがわかります。

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