日本人特有「ぼっち遺伝子」に負けない3つの方法 「幸せな孤独」を実現している人に共通すること

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私の知人で、バス事故で娘を亡くされたBさんは、1年も経たないうちに「娘の死を無駄にしません」としっかり前を向いて生きています。

夫を交通事故で亡くし、その1カ月後に東日本大震災で9歳だった一人息子を亡くしたCさんは、「夫といい家庭を築けた。子どもを授かり9年間一緒に過ごせた。この思い出がこれからの私を支えてくれると思います」とやはり前を向きます。

50年連れ添った妻を亡くしたDさんは、趣味の油絵を楽しみながら、独りで静かな毎日を送っています。

大切な人を失ったときに、ふつうの人なら2、3年、もしかすると10年以上も苦しみの中にいても不思議ではないと思います。しかし、Bさんも、Cさんも、Dさんも、寂しさや悲しみが消えることはないと口にしますが、それと同時に幸せを感じることも多いといいます。そこに、孤独から連想される絶望感はどこにもありません。

幸せをもたらす「3つの考え方」

なぜ、孤独なのに幸福な人がいるのか?

幸福学では、日本だけでなく世界にも目を向け、「孤独」に関して学会で認められている論文を収集。その内容を分析したところ、「幸せな孤独」を実現している人々に共通する傾向として、3つの要素が浮かび上がってきました。

1.うけいれる
2.ほめる
3.らくになる

学問的な表現で言えば、うけいれる=自己受容、(自分を)ほめる=自尊心、らくになる=楽観性、という要素に当たるのですが、ここではわかりやすさを優先し、あえて上記のような表現にしています。以下、詳しくご説明します。

1.「うけいれる」(自己受容)

孤独に悩んでいる人は、独りぼっちである、友だちがいない、人に声をかけられないなど、マイナスだと思っているところばかりに目を向ける傾向があります。そんな自分をゆるして「うけいれて」あげることです。

2.「ほめる」(自尊心)

ここでの「ほめる」は自分をほめるということです。孤独による苦しみから抜け出せない人にとっての大きな問題は「自分には魅力がないから孤独なのだ」という誤った思い込み、悪い心のクセでしょう。周囲に人がいる、いないといったことは、必ずしも人間的魅力と正比例するものではありません。自分の魅力を再発見し、「ほめる」ことができれば、幸せがぐっと近づきます。

3.「らくになる」(楽観性)

「まあいいか」と物事を深刻に捉えない考え方は、孤独に悩んでいる人にとって、最もハードルが高い要素かもしれません。しかし、「うけいれる」で自分のいいところも悪いところも認め、「ほめる」で自分のいいところを伸ばす、という段階を踏んでくると、思っているほど高いものではなくなるでしょう。

『幸せな孤独 「幸福学博士」が教える「孤独」を幸せに変える方法』(アスコム)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

「3つの考え方」は誰でも身につけることができます。なぜなら、あくまで物事をどう捉えるかという、感じ方の問題にすぎないからです。3つの考え方は、簡単なレッスンを日々続けることで身につきます。

そもそも、孤独が「不幸」だと誰が決めつけたのでしょうか。

ドイツの哲学者、ニーチェは次のような言葉を残しています。

「孤独を味わうことで、人は自分に厳しく、人に優しくなれる。いずれにせよ人格が磨かれる」

独りでいることは、他人に振り回されず自分を磨く時間がたっぷりあるということです。

未来の日本では、「孤独」が否応なしに身近に迫ってきます。人とのつながりを増やすことも重要ですが、「孤独」の有益性にも改めて目を向けたいものです。

前野 隆司 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授

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まえの たかし / Takashi Maeno

1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年より慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。
 

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