地方移住し「農家の長男」と結婚した彼女のホンネ 都会でバリバリ働く生活からの大胆変化

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真司さんの答えもまた明快だった。自分は農家を継ぐのが嫌だった時期が長く、10年ほどは実家を出て会社員をしていた。だから、もし子どもができたとしても跡取りとは考えていない、というのだ。とにかく桃子さんと一緒に過ごしたい、と真っすぐに言ってくれた。

「それでも即答はできませんでした。移住をしてきたくせに、私はこの地で一生を送る覚悟ができていないと気づいたからです」

その迷いも率直に伝えると、真司さんからまたしても男気のある答えが返ってきた。

「オレも田舎が嫌だったからよくわかる。まずは友達になろう。オレは桃子の味方でいるつもりだし、心の片隅に置いてくれればいいから」

初対面では無口だった真司さんの一世一代の告白である。その後、2人は本当に友達になった。真司さんは自分が作った野菜を持ってきてくれたり、車で桃子さんと犬たちをドライブに連れていってくれたり。そんな日々を3カ月ほど続けていたら、真司さんと2人でこの地で暮らし続けることが自然に思えてきた。

「『家族なんだな』と感じます」

結婚した今はあれこれ考える暇がないほど忙しい日々だ。真司さんは朝5時半には家を出て、車で5分のところにある実家と田畑に向かう。桃子さんは家事を済ませてから7時半には夫と両親と合流し、収穫や選別、袋詰めなどの作業に参加。そのほかに犬の世話や町役場でのパートもある。

「パートで稼いだお金は私のお小遣いです。夫とは仲いいと思いますよ。家事がまったくできない人なので私が一方的にイライラすることはありますが、夫が怒ったところを見たことはありません。両親もすごくよくしてくれます。お昼ご飯はいつもお母さんが作ってくれて、一緒に食べていると『家族なんだな』と感じます」

現在、不妊治療に挑戦するために体調を整えているという桃子さん。真司さんがお酒を飲まないこともあり、自分も飲まずに早寝早起きをするようになった。飲み歩くことが大好きだった都会での1人暮らし時代とは生活が大きく変わった。

「結婚したら自由がなくなると思っていたのですが、そんなことはないんですね。自由の種類が違うだけです」

実の父親や継母からは愛してもらった。それでも結婚を「いいもの」だとは思えず、ずっと1人で生きてきた。そんな桃子さんが遠い移住先で見つけた縁を育てて、穏やかで温かい家族に囲まれて暮らしている。率直で誠実でありさえすれば、人はいつでもどこでもよき家庭を築けるのかもしれない。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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