そしてもう1つ、堀切駅には“注意点”があるという。
「堀切菖蒲園の最寄り駅だと間違えられるお客さまがたまにいるんです。堀切菖蒲園は荒川の対岸、京成線堀切菖蒲園駅が近いんですが、堀切駅という名前で勘違いされて。歩いても15分くらいで行けるんですが、高齢の方も多いので牛田駅で京成線に乗り換えるようご案内しています」(岩波さん)
堀切菖蒲園があるのは葛飾区堀切。川の対岸の地名をなぜ足立区にある東武の駅が名乗っているのだろうか。
「開業したときにはもっと東側にあったんです。でもそこに荒川放水路を造ることになりまして、ルートが大きく変わったんです。それで堀切の対岸の堀切駅になった、というわけです。昔の駅や線路は……もう川の底ですね」(岩波さん)
もともと荒川はいまより東側を大きく蛇行しながら流れており、水害がひとつの悩みのタネだった。そこでまっすぐに流れる放水路を掘削することになり、1913〜1930年にかけて工事が行われた。それに伴ってスカイツリーラインは1923年にルート変更。堀切駅も一時期の休止・廃止を経て新ルート上に開業したというわけだ。
「このルートの変更があったので、堀切駅もそうですがカーブしているところが多いんです。昔の名残、というよりは荒川放水路ができたことによるものですね」(岩波さん)
下町区間を旅していると、どの駅もいかにも下町らしい空気の中にたたずんでいる。下町ということはずっと変わらない昔ながらの町、というイメージを抱きがちだ。だが、この区間においては荒川放水路掘削、そして関東大震災や空襲も経験している。案外に、波乱に満ちた沿線なのである。
牛田駅は目の前に京成関屋駅
荒川の土手の脇の堀切駅からは、左に向けて急カーブ。高架の京成線をくぐった先に東武の牛田駅がある。牛田駅の改札を抜け、目の前の生活道路を挟んだ先には京成関屋駅。京成本線と東武スカイツリーラインが互いに乗り換えられる唯一の駅である。
「乗り換えられる方も結構たくさんいらっしゃいます。コロナ前ですと、スーツケースを持った方もよく行き来していまして、空港に向かわれるのかなあと思っていました」(岩波さん)
ちなみに、京成関屋駅は1931年、牛田駅はその翌年の1932年に開業した。なんでわざわざ違う駅名にしたのだろう。いずれの駅も千住曙町にあるが、京成関屋駅の南西側には千住関屋町という町がある。牛田駅の由来は牛田圦(いり)と呼ばれる農業用水路が近くにあったことからだとか。つまりそれぞれちゃんとした由来はあるのだが、ほとんど同じ場所にあるのに駅名が違う理由はよくわからない。当時、同じ下町を走る東武と京成でライバル心みたいなものがあったのかもしれない。
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